ラヴクラフトの事典です。クトゥルフ神話の事典を期待する方は、すでにある東雅夫氏のものをおすすめします。
事典といっても、引くよりも読んでいくものですが、ラヴクラフト・ファンにとっては逃せません。
執筆者のS・T・ヨシ(インド生まれ、米国在住)はラヴクラフト研究では群を抜き、七十年代から今日にかけて
精力的に(実に精力的です)、作品からエッセイ、書簡に当たりながら、ラヴクラフトの生涯、思想などを詳しく
明らかにしてくれています。同じヨシの著作なら、本書などよりも'H.P.Lovecraft: A Life'という一級の伝記の
方を邦訳して欲しかったと思います。生涯のエピソードの羅列ではなく、後の作品などと関連させながらの記述で、
ラヴクラフトとその時代が見えてくるすばらしい伝記です。また、ラヴクラフト生誕百年記念で出版された
'An Epicure in the Terrible'もD.E.シュルツとヨシの共同編集で、複数の研究家によるラヴクラフトへの肉迫を
試みる本としておすすめです。ヨシの著作の質と量の凄さを思えば、今回の大事典がヨシの著作の邦訳が増える
糸口になって欲しいと切に願う次第です。