傑作Starsailorから2年を置いて発表された7作目。
Tim Buckleyのキャリアを総括できる視点から見ると、このアルバムはR&B,ファンク路線への転向の
始まりの1枚とされるが、彼のボーカルパフォーマンスは相変わらず、全くもって見事という域。
それよりも、この作品で重要な意味を持っているのは、そのボーカルとの関係が以前の作品とは大きく変わっているリズム隊、そして盟友のGt.リー・アンダーウッドの不在であろう。
この作品までのTim Buckleyのバンドの演奏はといえば、即興性の強い圧倒的な存在感の歌声と、リー・アンダーウッドによる静謐なギタープレイによって作られる空気感を軸にして、ベースやパーカッションは良くも悪くも前に出ず、敢えてその空気に内包されていくことで成り立っていたように思う。リズムを力強く刻んでいたのはどちらかと言うとギターであったくらいだ。
ところがこのアルバムではそれが大きく異なる。Ba.チャック・レイニー、Dr.エド・グリーンの強力なリズム隊はTimのヴォーカルに向こうを張る、そしてそれが見事な駆け引き、いい意味での共犯関係を作り出している。
エド・グリーンのタイトで力強く、正確なドラミング、その上を縫うようにうねっていくチャック・レイニーのファンク・ベース、そしてそれをさらに上回る自由度で飛んでいくTimのヴォーカル、この三様の対比構造は作品を通して聴きものになっている。そしてそのぶんギターやピアノの音の持つ意味も違ってくる。
面白いのは、こうして大きくバンドの音のバランスが変わったことで、逆にTimのボーカルが更に自由になっているように聴こえることだ。一方に正確なドラミングがある故、もう一方で遊びの場所を増やすことができているのだと思う。
"Tim Buckleyのサウンド"でなくなったのは、もしかしたら彼自身、自分の声を客体化してバンドの音のピースの1つにしようという意識があったということなのかもしれない。
Starsailorが大変な傑作であったため、そこから2年を空けて出してきたこのアルバムにあまり期待をかけていなかったのだが、間違いであった。
Tim Buckleyが歌う限り、どんなバックにのせたとしてもそれはTim Buckleyの世界になる。
やはり彼は同時代の何歩も先を行く先進性と、強烈な個の才能を併せ持った、ジミヘンばりの天才であったのだと思う。
今に至ってもまだ追いつけない創造性のために、廃番の憂き目にあったりもしているわけだが…。
しかし!!このアルバム、現在タ○ーレコードにてSHM-CDで再発、この機会にチェックされてみてはいかがでしょう。