ベルグのピアノ・ソナタとエルンスト・クルシェネクのピアノ・ソナタ第3番が1950年6月30日・7月1日、ニュー・ヨーク30th Street Studio、ウェーベルンの作品27が1964年4月23・24日、トロント、CBCスタジオ、作品24が同じCBCスタジオで1977年、ドビュッシーが同じCBCスタジオで1973年、ラヴェルが同じCBCスタジオで1974年録音。新ウィーン楽派とロマン派というグールドらしからぬ組み合わせに聴かずにはいられないアルバムである。
いずれも曲の骨格がはっきりと分かる素晴らしい演奏だ。特に素晴らしいのが、エルンスト・クルシェネクのピアノ・ソナタ第3番とモーリス・ラヴェルのラ・ヴァルスだと思う。
まず、エルンスト・クルシェネクのピアノ・ソナタ第3番だが、作曲者エルンスト・クルシェネクがこの演奏を評して、『プロコフィエフ作品のような「ヴィルトゥオーゾ作品」と解釈している』と非難したことで有名だ。クルシェネクは自身の正統的な解釈を後世に残すべく、ピアニストのジェフリー・ダグラス・マッジに演奏し残させているという徹底的な否定ぶりだったが、結局マッジの演奏は埋もれ、グールドのこの演奏が光を浴びている結果となっている気がする。なかなか皮肉である。
次にラ・ヴァルスであるがホントに名演である。ぼくは全ピアニストの演奏の中で一番にあげたいと思う。グールドを知る人はグールドのタッチがロマン派の曲に向かないと思う人はいないと思う。むしろピッタリなくらいである。にもかかわらずグールドはロマン派の録音をほとんど残していない。それがグールドの意思であり、アイデンテティなのだとも思う。にもかかわらず弾き残さずにはいられなかったこれらの曲の素晴らしさに、グールドの人間らしさを感じてしまうのだ。