Jess Baileyと村上啓介を編曲に迎え、ジャズ/ソウルのアダルトな心地よさを奏でる傑作で、製作もミュージシャンもロンドン。音には独特のタイトさがあり、スローな曲ではアーバンブルーを、攻める曲ではブラスロックの高揚を、そして至る所でJessの冷静で知的なピアノが深い落ち着きを魅せます。
始まりはアンサンブルが複雑に編まれた「GUYS」。オーセンティックなロックギターのリフとホーンセクションが疾走しながら調和し、特に転調の効果的なアクセントが魅力です。又インタープレイでは内省的なベースの上をピアノが軽やかに跳ねてゆき、ジャズのスウィングで描かれます。そこへストリングスも重なってくるので、非常に厚いオープニング楽曲ですね。
次の「野いちごがゆれるように」はスイートソウル。これほど身を任せたくなるスローなリズムは今のR&Bには珍しいかもしれません。一見歌謡曲的な色調ですが、リズム・アンド・ブルースの大らかな弧をしっかり融合させており、それをたっぷり歌い上げられるのが聴き所です。こういう聞かせ方が出来るのはC&Aの力量かなと思います。続く「if」はシングルと違いウイスパーボイスで歌われ、展開も徐々に温かみを増すので、当に冬の夜を思い浮かばせる歌い方と編曲でしょう。Jessの美しい感性が反映されました。
東京から持ち込まれたチャゲ曲、特に「だから」「光と影」は彼のアンニュイな声が今作のブルーな雰囲気と相乗し合い、その神秘的な声が切なく活きていました。ひょっとしたらチャゲはジャズシンガー向けなんじゃないかと思えるアダルトな表現力をその声にみせます。
「HANG UP THE PHONE」はMTVアンプラグドの一曲目で披露されたり、ライヴでもどんどんジャズアレンジによる開拓がされていった、C&Aのグルーヴィな代表曲です。“ワインが覚めて”と歌う主旋律のうねりとベースラインは癖になりますし、ホーンやコーラスの音色は真夜中の危うさを引き立てるので、魅惑的な名曲です。
そして今作で最も優れたジャズブルーは「WHY」。まるで深い影へゆっくり墜ちて再びゆったりと上がってくるような、飛鳥のヴォーカルが本当に素晴らしいです。彼の場合よくその声量などが注目されるのですが、それ以上にこの深く滑らかに大きく、尚且つ抑制的に歌声を描ける点は驚愕でした。その制御力こそが、曲の虚無を成立せしめているのですから、歌唱力とはこういう楽曲にこそみえてくるのですね。編曲も哀愁のトランペットが静かに吹き渡り大人向けです。本当に日本のジャズスタンダードとして光が当たったらいいのにと思わせる優れた曲でした。
いい曲はまだまだあります。ピアノの微妙な色彩表現が綺麗なのは「今日はこんなに元気です」。飛鳥の語り部分から場面が加速し出す構成が映像的です。
一方9や10のロックはソリッドで妖艶な味わい深さ。このサイケデリックなのが子供の頃はわからなかったチャゲの大人味。今きくと非常にかっこいいです。
最後に待っているのはモナコ音楽祭や日本GD大賞で披露され、C&Aのシングルとしては最もエレガントな「no no darlin'」。暫くSUBARUのCF曲でした。ピアノが爽やかに跳ね、サビコーラスのユニゾンや、Cメロから一気に音楽が色彩豊かに広がる展開などJessの編曲が本当に優美で、もっと代表曲として有名になるべき曲ですね。
ラスト曲の「世界にMerryX'mas」はジョン・レノン「Happy Christmas(War Is Over)」へのオマージュ。しかし平和やクリスマスという一見陳腐にイメージされがちなことばが、この曲の構成では非常に誠実にしかし仰々しくはせず、しみじみと説得力をもって歌われています。ファッションとしてのクリスマス曲じゃなくて、本来のクリスマスってこういうぬくもりだったなと子供の頃のクリスマスの夜を思い出させ、クリスマスに対し真摯にC&Aのオリジナリティがこめられているのです。JudeRoaeの美声ソロは、寒中に咲く一輪の花のように、或は休戦の知らせのようにクリスマスの安らぎをもたらし、またロンドンっ子らの無垢で奔放な歌声が運んでくるのは、クリスマス曲が持つべき平和の肌触りでした。そして最後は全てを雪に浄化してゆくようで、いい作品の終わり方ですね。