40代手前の僕の洋楽体験の源流は、小学生の頃のマイケル・ジャクソンやカルチャー・クラブの体験だ。そして、生まれて初めてまともに見たジャズ・アーティストが、当時グラミー賞受賞ステージで「ロック・イット」(本盤1曲目)を演奏しているハービーの姿だったのだが、それは同時に僕にとってのヒップホップ初体験でもあった。(今でも、彼の演奏の衝撃は目に焼き付いている。)その後もテレビのバラエティ番組で1曲目や5曲目が(今でも!)使われ続けることによって、本盤は日本のお茶の間にジャズの裾野を広げ続けてきた一枚となったと言えるだろう。
さて、音の方を今の時代に改めて聴くと、ここで取り上げられているヒップホップはブレイク・ダンス世代のもので、スクラッチやビートも素朴でシンプルだ。(星を一つ削った理由というのも、そこにある。)ラップもサンプリングも無いので、これをヒップホップと言われると若い世代には違和感があるかもしれないが、でも、逆にそれらの条件を削ることにこそ、ジャズ・ミュージシャンが「演奏する」ヒップホップ、というスタイルを提示した、ハービーとビル・ラズウェルのアイデアがあったのではなかろうか。
今、アラフォー世代以下のジャズ・ミュージシャンが、ロックやエレクトロニカの曲を演奏することは全く珍しいことではない。でも、ロックやエレクトロニカを乗っ取っちゃうようなアルバムを作ったアーティストは残念ながらまだ現れていない。そういう意味では、ファンクやヒップホップのど真ん中に突っ込んでいきつつ、「ジャズ・プレイヤーの演奏」をリスナーに感じさせ続けることで、スレスレのところで「ジャズ」を成立させてきたハービーという人のアプローチは、今でも有効なように思う。で、唯一彼だけがジャズとポップス両方のフィールドで成功している理由というのも、そのあたりにあるのではなかろうか。