この本は、多分、心理学、哲学の分野の、現役の学者12名が題記のテーマに関して書いたもので、米国のJohn Templeton Foundation(神学、宗教の科学的理解の増進を目標の一つとする組織)がスポンサーとなった2008年の会議で発表された論文をベースにして、各の研究者が書いた12の論文集である。私は題記の現状を知るつてとしてこの本を読んだ。
多くの我々は、直観と経験によって、「自由意志」のあることを信じている。古代ギリシャ時代からのこのテーマに対して、最先端の(唯物論的)科学の見解によると大半の科学者は、「自由意志」は幻影である、と考えているようだ。しかし、この本の最後の論文は、「What Science Tells Us about Free Will」で、その著者は「自由意志」に関する科学者の見解は一つではない現状を紹介している。これらの論文の中の幾つかでは、予め、「自由意志」があると信じたグループ、ないと信じたグループ、および何の制御もしなかったグループの3つの人々に対して実施した心理学実験の話があり、概して、「自由意志」がないと信じたグループの人々は紙上での社会行動を決める場合に「道徳」的に整合する行動とは反対の行動をとる傾向があり、従って、「自由意志」の有無に関する科学の判断は社会的に重要な意味を持つだろうとしている。
量子力学の生みの親の一人、物理学者Schrodingerは本「What is Life? (生命とは何か?)」の最終章「On Determinism and Free Will」で次のように書いている: I, in the widest meaning of the word, am the person, if any, who controls the ‘motion of the atoms’ according to the Laws of Nature. そして、原子の運動を制御できるのはおそらく「神」のようなものであるだろうと言って、インド哲学の神髄方程式「Atman = Brahman」を引用している。これはSchrodinger (1887-1961)が1957年に書いたもの。量子力学の基礎論のテーマに、「量子系の観測の理論」があり、この中で、「観測者」は自由意志を持って重要な役割を演じてきた。これがBohrに始まる量子論の伝統的な「コペンハーゲン解釈」である。しかし、この解釈は種々のパラドックスを生んだため、それを解決しようとして1957年、Ph.D.候補生Hugh Everettは「多世界理論」とも言うべき新しい量子論の解釈を数学モデルにより定式化した。この論文の縮約版(Everettのオリジナル版を指導教官の指示で1/3〜1/4に縮小)がEverettの指導教官物理学者John A. Wheelerによって何人かの量子論物理学者にレビューのため送付された。Wheelerの先生Bohr(その時72歳)は、自分の考えを否定するこの理論を断固として認めなかった。Schrodinger(その時70歳)も馬鹿げた理論として、認めなかった。この理論はReview of Modern Physicsに発表後10年ほどの間、世の科学者からは無視されていたが、論文の完全版もベースに、1970年代に入って以降現在まで、多くの科学者によって議論され、新しい展開も加えられ、「並行宇宙論(パラレルユニバース)」の基にもなっている。Everettの理論では、「観測者」も「観測装置」も、所詮、原子分子で構成され、それらも量子力学の計算対象であり、測定される「量子系」とその周りの環境の間に区切りを置くことはできないはずだから、Schrodingerの波動方程式は、全宇宙を対象とした「宇宙波動方程式」ともなるはずだとした。このように、Everett理論は純粋に「唯物論」に基礎を置いている。Everett曰く「自由意志は幻想である」。調査によると、今日的「多世界理論」を支持する(調査に回答した)科学者は、複数のノーベル賞物理学者を含め約58%にのぼる。Bohrが提案した量子論解釈は「二元論」的な側面を持っており、「多世界理論」はこれを否定する「唯物一元論」といえる。
題記の本の最終章でも「多世界理論」の話が出てくる。面白いのは、この本の著者の多くは、「自由意志」を信じ、しかし、それを否定する科学も信じてそれぞれの考えを表明していることだ。あなたはどのように考えますか?