将来を嘱望されるグルジアの才媛、カティア・ブニアティシヴィリのソロデビュー作。2010年10月、ベルリン・マイスターザールにてセッション録音。全5曲8トラック、収録時間67分。※このページの商品はDVDが付属するデジパック仕様の限定盤(Import from USとあるがmade in EUである)。
本作リリース直前の来日は惜しくも中止となったが、彼女の実力は2010年のラ・フォル・ジュルネで確認済み。そこで披露されたショパンではなく、リスト作品集でのデビューは本人の念願という。
収録作品は王道路線。これだけの新人のデビュー作が「愛の夢」で幕開けとは、ちょっとベタ過ぎる印象もある。まあリストイヤーに掛けて売るには、手堅い選曲というところか。
いっぽう演奏は掛け値なしに素晴らしい。甘美なフレーズにおける古典的な解釈、超絶技巧フレーズでの疾走感あふれる骨太な表現、そして時おり垣間見せる民族的なタッチ(同郷のトラーゼを思わせる)など、それぞれが見事な成熟ぶりで、しかも彼女なりのアイデンティティがしっかり根付いている。
ブニアティシヴィリの同世代ピアニストというと、ユジャ・ワンやリーズ・ドゥ・ラ・サールの名がすぐに浮かぶ(全員がリストを弾いている)。何れも甲乙つけ難い技巧派で、しかもそれぞれに個性がある。リストに限れば個人的にはラ・サールに惹かれるが、これは好みの問題だろう。
ボーナスDVDは本作収録のロ短調ピアノソナタを基調に、奏者自身が発想を膨らませた幻想的ショート・フィルム。ここで彼女はファウスト、メフィスト、マルグリットという三つのキャラクターを演じ、リストゆかりのファウスト伝説をモチーフに作曲家の内面に迫ろうとする。
彼女自身のコスプレも映像もたいへん凝ったもので、洒落たPVと解釈すればそれなりに見応えもあるが、4分30秒弱という尺ではオマケの域を出ない。また容姿(美人といえるかは微妙)を強調するアイドル風の売り方には疑問を感じる。
なお付属のブックレットは英独仏語の解説つき。日本企業が所有するレコード会社の商品なのだから、日本語解説を加えてインターナショナル盤とすべきと思う。通常CDのリリースから二カ月後にオマケ付きの限定盤を出すやり方も、音楽ファンへの気配りに欠ける。
ソニーミュージックには、かつてヒラリー・ハーンをDGに「さらわれた」前歴があるが、ソニー時代のハーンもアイドル風の扱いだった。ブニアティシヴィリも早めにハーンの後を追った方が、アーティストとして大成できるのではないか。