Gregory Fulkerson violin Robert Shannon piano, Hansheinz Schneeberger violin Daniel Cholette piano, Curt Thompson violin Rodney Waters piano と聴き比べてみたが、ハーン&リシッツァの演奏が、私は断然気に入った。
米国アマゾンのカスタマーレビューに「Hahn's tone is dry and thin; her bowing is agile but inexpressive.(ハーンの音は乾いていて細い。機敏な弓使いだが、無表情)」と書いてある。私もそう思う。その音色は大音量で聴くとうるさい。また音色が美しくない。艶やかではない。そのうるさい音色の理由は「録音機器が、ヴァレンティーナ・リシッツァが弾くベーゼンドルファー・インペリアルの音を録るためにチューニングされ、ヴァイオリンのピッチに合わせられていなかったから」と私は推測していたが、実は、そうではないようだ(ちなみに、このアルバムは、ハーン自身が共同でプロデュースしている)。
ハーンのアイヴズは、彼女の前録音、ヒグドン/チャイコフスキーに比べると装飾を排した奏法だと思う。「細くて乾いた音色」は意図的だと思う。細かいヴィブラートが、かえってうるさい。そして、その細くて乾いた音が、アイヴズの狂乱の音楽に合っていると私は思う。
第3ソナタ第1楽章「第3節」Allegretto は8分の6拍子であり、ジグ風であり、スケルツォ的であり、そこにおいてすでに、ハーンとリシッツァは少し挑発的である。さらに、第3ソナタ第2楽章「Allegro」において、二人は水を得た魚のようである。それらの曲芸的演奏が彼女らの演奏の大きな魅力だ。しかし、それらは彼女らの演奏の魅力の一つにすぎない。
すなわち、ハーンとリシッツァによる「アイヴズ:ヴァイオリン・ソナタ集」の魅力はテンポが速いこと、激しいこと、快活であることだけではない。第3ソナタ第1楽章1分47秒あたりに現れる「水の戯れ」のような音形を、リシッツァは美しく弾いている。また、彼女が弾くベーゼンドルファー・インペリアルは、ピアノ・パートの低音の声部を、よく鳴らしていると思う。アイヴズのヴァイオリン・ソナタのピアノ・パートは複雑な書法で書かれているが、リシッツァはそれを余裕をもって弾いているように聞こえる。
第1ソナタ第1楽章第1小節(スコアではスタッカート)を Robert Shannon piano, Daniel Cholette piano, Rodney Waters piano がノンレガートで弾いているのに対して、リシッツァはレガート気味に弾いている。リシッツァは、アイヴズの奇妙な「声」をとても魅惑的に聞かせる。
スコアを見ながら聴いてみると、この第1ソナタ第1楽章は狂乱の音楽であると思えるが、ヒラリー・ハーンは難無く弾いている。ハーンとリシッツァはうまいと思う。ハーンが、アイヴズを研究するのに苦労したことがうかがえる。彼女が、リーフレットに「When we got our hands on the sheet music, we attempted to read through it. That effort quickly stalled. (私たちはスコアを入手して譜読みをしようと試みたが、その努力はすぐに失速した)」と述べている、その意味がよくわかる。
第1ソナタ第2楽章「Largo cantabile」のハーンの演奏は、私には第一印象にして魅力的だった。第1ソナタ第2楽章冒頭の「The Old Oaken Bucket」は、ハーンの演奏のみが私に懐かしさを感じさせる。また、彼女が第1ソナタ第2楽章のヴァイオリン・オブリガート(12小節目から、独特の旋律であり魅力的)をきちんと聞かせているのは好感を持てる(ただし終わりの方はピアノの音に押され気味)。それに対して、Gregory Fulkerson violin, Curt Thompson violin, Hansheinz Schneeberger violin のオブリガートは、ピアノの音に埋没してよく聞こえない。
カート・トンプソン、ロドニー・ウォーターズの演奏はアンサンブルが若干悪い。
Gregory Fulkerson violin はソナタ全4曲をよく歌っているし、Robert Shannon piano はピアノを丁寧に弾いており、作品を勉強するための良い素材だと思う。
Hansheinz Schneeberger violin Daniel Cholette piano の演奏は恣意的に感じる。