2007年の米国に発した経済危機の分析はもはや旧聞だし、聞き飽きたと思っていたが、その原因はFault Lines=断層線にあるという表題に惹かれて、何だろうと興味を持って読んだ。筆者は元IMF幹部で大学教授だ。
Fault Linesには「ストレス」「歪」という意味しかなかったが、遅れて出版されただけあって考察の鋭さ深さには感心した。従来の経済書には無かった考察が多い。3つのFault Lines=FLは、(1)米国の高収入層と中流以下の労働者階級の間のFL。ITバブル崩壊後に米GDPが回復しても雇用が回復せず中流以下は置いてきぼりを食らった。(2)過剰消費の米と日本や中国などの輸出依存国の間のFL。(3)自由競争経済の先進国と統制経済の発展途上国との間のFL。これらがなぜ経済危機の原因となったかは読んでのお楽しみだ。
これらのFLは依然残っているので、何時また経済危機が再発するかも知れないと、全体の三分の一近くを具体的な対策の提案に充てている。基本は「危機になればどうせ政府が救済してくれるだろう」という甘えを断つことにあり、具体策には説得力がある。また諸悪の根源は教育・訓練の格差だとして、貧困層の妊娠から始まり職場訓練に及ぶ教育過程の改善支援を訴求している。
冒頭のIntroduction、末尾のEpilogue、各章のSummaryが充実しており、非常に整理された名著だ。しかし文字は小さ目で、英語も内容もやや難しい本でもある。