Donny Hathawayの生前最後の作品となってしまった"Extension Of A Man"。タイトルの"Extension Of A Man"と言うのを訳すと『人間の(可能性の)拡張』となる。Donny Hathawayはそれを音楽というアートを通して達成させようとこの作品を創ったのだろう。このアルバムは正にポップスという音楽の枠では捉えきれない位の芸術的な作品となった。
オープニングの"I Love The Lord; He Heard My Cry, Pts. 1 & 2"は45人という編成で録音されたオーケストラナンバー。クラシックの音楽理論にゴスペルのコード進行を加え、壮大で神秘的なサウンドを生み出している。そこからアコースティックギターとキーボードで構成された世にも美しい"Someday We'll All Be Free"のイントロに展開する。流石にここの部分はいつ聴いても鳥肌が立ってしまう。正に神懸かっていると言うべきか、言い表せないほどの深い感動を与えられてしまう。"Extension Of A Man"というタイトルも頷けてしまう。
さらにこのアルバムは様々な音楽が入り混じっている。"Valdez in the Country"のようなJazzyなインストナンバーに、3拍子構成の爽快なナンバー"Flying Easy"。"The Ghetto"を想像させるような"The Slums"、誰もが恋してしまいそうなキュートなラヴポップス"Love, Love, Love"に、Leon Wareの切ないメロディが効いた"I Know It's You"。Donny Hathawayの持ちうる知識やテクニックがこのアルバム1枚に凝縮しているかのようだ。
このアルバム発売の6年後に彼は自ら命を絶ってしまう。彼の可能性を拡張したこの素晴らしい音源を発売した後、6年の間彼は一つも作品を創り上げる事が出来ずに終わった。想像ではあるけれど到達すべき目標に辿り付いてしまい、行く先が既に無くなってしまったのではないのか?それでも彼はさらなる拡張を見据えて音楽と誠実に向き合っていたのではないだろうか?その先には絶望しか有り得ないような気がしてしまう。それだけに、希望を歌う彼の"Someday We'll All Be Free"という曲が、とても悲しく聴こえてしまう時がある。