ダーウィンの進化論ほど議論を呼び起こした科学的な学説もあるまい。宗教的思考との対立の歴史を述べるまでもなく、数々の事実の積み重ねが確固たる証拠を示す今日に於いても、進化論を未だに受け入れられない人々も数多く存在する。
しかし、スティーブン・ジェイ・グールドの本著は、科学の大勝利を大げさに謳った啓蒙書ではない。このエッセイ集では、異なる学説を支持する学者達の(後世の人間にとっては愉快な)熾烈な対立を通して、生物学のダーウィニズム的な解釈が明かにされる。この過程で、進化論の歴史から豊富な例を引用しながら、グールドは科学的プロセスに於ける、人間の偏見や偏向の不可避性を強調するのである。
こういう本は、学校での詰め込み型の教育によって、科学はつまらないものと思いこんでしまった学生達に強く薦めたい。教科書からより、もっと多くの価値ある科学をこの本から学べるはずである。
科学は、少数の天才科学者の完璧なる論理的思考から導かれた、確固たる事実と証拠の積み重ね、と思われている節がある。グールドのエッセイに紹介される逸話は、こういう考えが正しくないということを教えてくれる。実際の所、客観性を追求するべき科学者でも、しばしば自らのもつ思想や知的嗜好などに振り回されることが多いのである。グールドの素晴らしいエッセイは、科学が文学や芸術と同じようにクリエイティブで人間的な活動である点、受け入れられた事実を積み重ねたり吸収するだけの活動ではないことを、明るみに出す。これが、母親を食べてしまうハエの話や、人種差別を肯定するために捏造された生物学的に怪しい発見など、興味深いテーマを通して展開される。
1970年代に書かれたものなので、細かい所で古くなってきていることは確かなのだろう。しかし、新しい発見があったからといって、グールドが伝えるエッセンスは色褪せることはない。それは、グールド自身が科学をダイナミックな活動であることを伝えるのに成功しているからである。