先日エリントンの長編自伝を読んだ。
なるほど、あのマイルスがLP片面使ってHe loved him madly を捧げる魅力がこの男爵には詰まっていた。原著からも、エリントンの詩的側面とソフトな語り口が伝わってきた。
一人の偉大な黒人ミュージシャンとして、常にリベラルな思想で同僚や後輩への愛を惜しまなかった上層階級の画家志望の青年は、やがて半世紀に渡って世界中に「ジャズという大輪の花」を咲かせることになる。
エリントンと言えば、私はなぜか村上春樹の小説を思い出す。
村上春樹の作品にも度々登場するエリントンの作品。シンプルなフレーズの組合せで、いかようにも受け取れるメタファーに満ちたストーリーで知られるこの作家は、実はエリントンの作品と驚くほど共通が多い。表層的にはシンプルだが、その作品の背景にあるものは「社会への甘美な怒り」であり、「純粋性への歓喜」であり、「予言するピアニスト」のようでもある。舐め過ぎると怒られるトローチみたいな常習性がある。限りない社会への告発性が、この時代の作家やミュージシャンといったアーティストから確実に感じ取れる。
エリントンに限らず、ビッグバンドは出来る限り大音量で聴いていただきたい。
環境が許さないなら、ヘッドフォンで深夜に聴けばいい。
エリントンの黄金期は1930年代ともされるが、私はビリー・ストレインホーンやアル・ヒブラーといった良き伴侶に囲まれた、このアルバムが録音された1950年代前後こそ聴きごたえがあると唱えたい。
謎といえば、今から60年近く前によくもこんなきれいな録音がしかもビッグバンドで残されていることだ。エリントンのマジックは、個性派メンバーを自在に操ったライヴのみならず、演奏曲やその豊穣なイメージを喚起させるタイトルやレコーディング技術にまで及んでいたのであろうか…。
このアルバムは、LP時代はオリジナルとセカンドで曲目が一部入れ替えられている。
さらにCD化に際し曲目追加で「なんとなくコンプリート化」がなされ、判断に苦しむ。
よってあくまで現在入手できる中では、最良の形の曲目という注釈はつけたい。