世界じゅうの誰とも同じように―― 一般化しようというつもりは毛頭ないが ――、私もセックスの聖なる意味を発見するまで時間がかかった。私の青春時代は、いくつもの大事な発見とたくさんの行きすぎが交錯する極端な自由の時代とちょうど重なっていて、そのあとには保守的な、抑圧的な時代が続いた。その抑圧はある意味で、いつまでも続けろと言われてもなかなかむずかしいほどの過剰の時代に対して、当然支払われるべき代償だったといえる。
この行きすぎの十年間(一九七〇年代のことだが)に、作家のアーヴィング・ウォレスはアメリカの検閲制度を扱った本を書き、そこで、セックスに関するある作品――『七分間』という題名の本―― の出版を禁止しようとする司法当局の政略をとりあげた。 ウォレスの小説の中では、検閲に関する議論を引き起こす要因として機能するこの作品自体はほとんど言及されず、セクシュアリティの問題もめったに扱われない。だから私は、この禁じられた本には何が書かれているんだろうと、とよく空想したものである。そして、ひょっとして自分で書いてみてしまったらどうだろう、などと思いついた。
実際には、ウォレスは小説の中で、存在しない本についてしきりに語っていたわけであり、このことが結果として、私が自分でやってみたらどうだろうと考えた作業に限界を課すことになり、結局実現できなかった。私の中に残ったのは、わずかに題名の記憶(ウォレスは時間の長さに関しては非常に保守的だったので、私は若干延長することにした)と、セクシュアリティの問題をまじめにとりあげることが重要だという考えだけだった ――これはむろん、すでに多くの書き手によって行なわれてきたことだ。
一九九七年のある日、イタリアのマントヴァで講演を終えた私は、泊っていたホテルで、一篇の原稿を受け取った。ブラジル人娼婦の実体験、その結婚や法律とのいざこざなど、彼女の冒険が書かれているものだった。二〇〇〇年になって、チューリッヒに立ち寄ったとき、私はその娼婦―― 源氏名はソニア ――に連絡をとって、その文章が面白かったことを伝えた。当時イタリアに居を定めていたソニアは、列車に飛び乗ってチューリッヒまで私に会いに来た。そして私と仲間を、ラングシュトラーセという地元の売春街へと案内してくれたのだ。私はソニアがあらかじめ、仲間の女性たちに私たちが来ることを予告していたとは知らなかったので、結局、いろんなことばに翻訳された自分の本にサインをすることになってびっくり仰天した。
その時点で私はすでにセックスについて書くことを決めていたが、まだ概要も決まっていなければ、主人公も見つかっていなかった。そのときの考えでは、従来的な方法による聖なるものの探究や修行が中心となるはずだったのだが、ラングストラーセ訪問によって私は目を開かれた―― 聖なる面を書くためには、セックスがなぜこれほど俗化され冒涜されてきたのを理解する必要があることがわかった。
スイスの雑誌『リリュストレ』の記者と話をしていたとき、私がラングシュトラーセで突然のサイン会が始まってしまったときのことを話して聞かせたところ、彼はこれを大々的なルポルタージュにして発表してしまった。その結果、ジュネーヴでサイン会を開いたときには何人もの娼婦が本を携えて姿を見せた。その中のひとりに私は特別に興味を引かれ、コーヒーを飲みに行った。話が続いて結局、夕食も一緒にすることになり、さらに続く数日間に何度も待ち合わせをすることになった。その中で『11分間』を導く基本線が生まれたのだった。
この女性マリーア(やはり愛称)に感謝したい。今ではローザンヌに住んでいて、結婚して美しい女の子ふたりに恵まれている彼女は、度重なる会合において私に自分の物語を惜しみなく分けあたえてくれて、この本はそれにのっとっているからである。
パウロ・コエーリョ
--このレビューは、同タイトルの単行本のレビューから転載されています。 --このテキストは、 ハードカバー 版に関連付けられています。
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精神と肉体の究極なバランスをもつ「真実の愛」への探求の過程が、主人公の日記をもとに綴られている。その内容は、誰もが共有するほろ苦い初恋の経験から始まり、性徴や性癖の発見を経て、理想と現実の相違を体験する。そして、セックスなんて正味11分間の問題、という独自の結論に達し、一旦は恋愛に失望するが、決して悲観的にはならず、ブラジル人独特の陽気さが感じとれる。
娘と父親という特別な関係の描写や、売春行為に対する罪悪感といった心の葛藤に、少々物足りなさを覚えたが、パウロ・コエーリョ氏の歯切れの良い語り口と鋭い洞察力は、健在である。ぜひ、男性の視点から見た「真実の愛」のカタチを描いた作品にも期待したい。
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