田中信正は日本におけるフリージャズの第一人者である佐藤允彦に師事した経歴を持ち、
その奇抜なプレイのみならず独特の演奏フォームからも極めて非凡かつ
「変態的」なイメージを抱かせるピアニストである。
私は2年前の大晦日に期せずして聴いた彼の「A列車で行こう」を決して忘れない。
ベテランドラマーの村上寛を振り落とさんばかりに白熱する彼のピアノソロは
「A列車」というよりも「暴走特急」と呼ぶのが相応しく、その音の洪水に呑み込まれた私は
終演後、その凄まじい音楽が感性の域値を超越して放心状態に陥った。
その切れ味鋭いインプロヴァイズは脳みそに「天才」の2文字を刻ませるには充分なものであった。
そして本作「Edge」である。
田中信正kartellというトリオ名義では2作目でありデビュー作から実に6年越しに発表された作品となる。
全て彼のオリジナル曲で構成されているがその水準はおしなべて高い。
その楽曲はどれも独特のポリリズムを含んでいるのが特徴的で
意外なほど(?!)均整のとれたメロディーで構成されているのが印象的である。
随所に入るフリージャズ的アプローチも彼ならでは。
しかしながら結局CD媒体ではライブにおける彼の「暴走」を目撃したときのような
カタルシスを得られないのが事実である。名実ともに日本のトップに君臨している
山下洋輔とのピアノ対決の際、名ドラマー森山威男をして「全く負けていない」とまで言わしめた
彼の高いポテンシャルの片鱗を覗かせるのは、本作においてはタイトル曲の「Edge」に限られる。
それ故に本作の魅力は前衛的かつ先鋭的なピアノトリオのサウンドスケープに尽きると断言して良い。
ここでの彼は明らかに総体的なトリオ表現の方に注力しており、その完成度は前作よりも際立っている。
寧ろ彼が脇役として参加している森山威男の諸作品の方が奔放な顔を見せているのが面白い。