リサ・バティアシュヴィリは旧ソ連構成国のひとつグルジア出身のヴァイオリニストで現在30代前半だそう。
本盤「ECHOES OF TIME」(邦題「時の谺」)は、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番をメインに、グルジア出身の作
曲家ギヤ・カンチェーリ、エストニア出身のアルヴォ・ペルトの現代曲等を挟み、ラフマニノフで締めるという大変興味深いプ
ログラムが組まれている。レコード会社のHPを観ると、「ソビエト連邦での政治的状況や抑圧によって大きな影響を受けた作
曲家たちに焦点を当てた選曲」となっているが、コンセプトの前知識抜きに接しても深い感銘を受けた作品なのでご紹介させ
ていただく。
他レビュアの方の様に比較に基づいた精緻なレビューは出来無いが、純粋に作品に接した印象として参考になれば嬉しい。
まず彼女の奏でるヴァイオリンの音そのものの美しさに惹かれた。大変に明晰かつ強い意志を秘めた音で、特に高音の伸び
と透明感が素晴らしい。どの曲も何か音を奏でる必然のようなもの感じる。それらを見事に捉える録音も優秀だ。
プログラムのメインとも言える、ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番。技巧面は勿論、音楽表現の上でも屈指の難
曲。彼女の演奏は極めて真っ直ぐに空間へ音を放つ印象で、例えば第1楽章にて、陰影深いオーケストラの色彩との対照が
面白い。彼女の独自の解釈に異論はあろうが、これはこれで一つの表現として深い感動を呼ぶものだ。
共演するオーケストラも単なる添え物に終わらず、時にソリストと同等の立ち位置と技巧を要求される処が曲者な楽曲だが、
主役のリサと一体となったバイエルン放送交響楽団の好サポート振りが見事。特に終楽章の躍動感と強烈なリズム感覚には
否応なく聴く側の血がたぎる。
カップリングされたカンチェーリとペルトの現代曲は、比較的調性が明確で特段難解な印象は受けない。どちらの楽曲もたっ
ぷりとヴァイオリンの音が響く空白が用意されており、ヴァイオリンの音の美しさを堪能させる。特にカンチェーリ「V&V」にて
全編に渡り鳴り響くヴァイオリンの旋律は宗教音楽の崇高さすら感じさせる。
締めはラフマニノフの名歌曲「ヴォカリーズ 作品34-14」。もっと感情的にベタな解釈も出来るだろうが、リサと伴奏者のグリモ
ーは、敢えてすっと流す様なクールな演奏を行う。しかし彼女の澄んだヴァイオリンの音で奏でる哀しい旋律は静かな感動を
与えてくれた。
リサの芯ある音で見事に纏め上げられたプログラム、普段ヴァイオリン作品を聴かない方も試聴してみて欲しい。自分の様に
もっとヴァイオリンの音が好きになるかもしれない。