パリでの暮らしを始めた鯛子。白鳥は無表情で存在感がないと言われ、私生活でも何を考えているのかさっぱりわからないと言われて悩む。文化の違い。しかし。コンクールまで90日しかないこの時点で、そんなところで迷って悩んでいるとは。年齢的にもかなり出遅れている彼女には、立ち止まっている暇などないはず。周囲の雑音に惑わされ、いちいち気にしていたら、それこそコンクールでは結果は出せない。
日本で自分のバレエ団を出てフリーになった時の経験、クラシックではないダンスで舞台に立った経験、そういった経験が、鯛子の中では全てリセットされてしまったのか、それとも著者がその設定を忘れてしまったのか。それらが全く活きていない。
槇村先生は、もっと魅力的なストーリー展開で数々の作品を生み出してこられた方だった。私はそれらの物語に引き込まれ、時に笑い、時に泣き、登場人物に共感すらできた。でも、今は、残念ながらそうできない。登場人物の描写や感情表現が淡々としすぎているせいだろうか。