米Dell Computer社はパソコンの注文販売をダイレクト販売の形で事業化し,成功した企業として有名。その事業化のビジネスモDellは,注目されているSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)を確立したためと分析されている。パソコンユーザーが望んでいる仕様のパソコンを,迅速に提供する需要本位の生産・販売体制をいち早く確立した点が研究されている。このため,SCMを導入しつつある企業は,Dell Computerの研究・分析に余念がない。
パソコン事業では,CPU(中央演算処理装置)の米Intel社,OS(基本ソフト)の米Microsoft社,DOS/V仕様の米IBM社など,技術を進化させた企業が影響力を持っていた。しかし,パソコン・メーカーであるIBMは,ユーザーの声をあまり重視していない仕様のパソコンを販売していた。販売店の営業部員がパソコン仕様に精通しておらず,ユーザーが欲しがっている仕様がIBMには届かなかったからだ。
一方,Dellは自分たちが欲しくなるような,優れた仕様のパソコンを組み立てて販売し成功していた。当時のパソコン展示会のコムデックスでは,パソコン好きのユーザーがDellの小さなブースに群がっていたという。ユーザーは性能面で一歩先を行くパソコンの実物に触れることができるからだった。当時誕生したばかりの,CPUなどを組み込んだチップセットをいち早く採用するなど,進取の気性が最初から発揮されていた。
実は,高性能仕様のパソコンを組み立てて販売するベンチャー企業は,当時は多数誕生していた。その中で,Dellが生き残ったのは,部品から製品を作るまでの速度(Dell用語ではヴェロシティ)を重視し,部品・製品の在庫をできるだけ少なくし,その在庫経費を最小にした分を製品価格引き下げに反映したからだ。ユーザーが選んだ仕様のパソコンが、短時間に低価格で提供されれば,売れることは間違いないが,この当たり前のことを着実に実行した企業は少なかった。
本書の前半は急成長するDellが,成長性と収益率,流動性(手持ちキャッシュフロー)のバランス確保に紆余(うよ)曲折する話である。その中で,最も重視したのは社員の働く意欲を高める組織づくりだった。現在でいえば,顧客満足度を高める意識を従業員全員が持つように,働きがいのある職場を目指し,いくつかの仕組みを試みた。たとえば,上級職マネージャーに二つの別の機能を担当させて,視野を広くし,活気を与えた。成功した理由はこの点にあると,Dellは分析している。
本書の白眉(はくび)は,インターネットの重要性に早く気づいて,その利用の仕方を高度化していったところだろう。企業ユーザー向けには,DellのWEBページの中に,その企業専用のプレミアページを設けた。WEB上でパソコンの仕様について最新の情報を得ることができ,その情報に基づいて仕様を決めると,価格がすぐに決まり,その後も自社の購買履歴情報などを見ることができる。
SCMを実現する手段として,インターネットなどの情報ツールを十二分に活用し,かつ仕組みをできるだけ簡単にし,問題点が分かりやすいように務めている。いろいろな試行錯誤の結果,部品のサプライヤーを約40社に絞り込み,単純で密接な関係を築いて互いに速度重視の経営を実現している。
本書は,いくらか自慢話臭い感じもあるが,強力なリーダーシップのもとに,顧客第一の販売の仕組みを築き,変革し続けているベンチャー企業の実務報告書である。 (東海大学非常勤講師 丸山 正明)
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他社は既存の販路を持っているから,特化できない。デルの成長は今に止まる。さまざまな議論があるが,本書を読むとデルの強さの本質は,顧客に密接し,そのために必要な変革をつねに実行できる企業文化をもっていることにその要因があることが理解できる。
デルはそのことを明確に認識し,変わりつづけていこうとしている。それが可能ならば,デルの視界はどこまでも広がっているように感じる。
デル氏の主張が明確にまとめられた本書は,デルを理解し,その仕組みを自らにも生かそうという人には最適の書である。
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