多様なヒップ・ホップの歴史のなかでも、最高のアルバムのひとつである本作は、当時の緊迫した社会的雰囲気のなかで生まれた、怪物的作品です。
溢れるエネルギーをぶちまけたような前作と異なり、死の部と生の部の二部から構成されている本作は、意外と丁寧に作られています。しかし、どちらのサイドも、サンプリングのセンスなどを云々する以前に、やはりもっぱら溢れる勢いで作られている感じで、それは構成をつきやぶって恍惚感として表面化します。ネガティブな感情、怒りや憎しみ、絶望をぶちまける彼のライミングには、とてつもないユーモアがただよっており、さらに生の部になると、それは甘美なまでの生の肯定になります。この時期の彼のライミングには、有無を言わせぬ圧倒感があり、その勢いの前には、音楽的技巧、ライムの技術もサンプリングのセンスも、ほとんど無意味だと思えてきます。
背景には、L.A.暴動へとつながっていく緊迫した雰囲気、社会の矛盾、隠された社会の暗部、そのようなものの噴出があることは、誰の目にも明らかです。現在ではすっかり忘れ去られてしまっているその深刻さは、今後改めて見直されねばならないでしょう。歌詞は非常に緊密であって、どうしても言いたいことがたくさんある、ぜひ言わせてくれ、というエネルギーをひしひしと感じます。ロックにもフォークにも深刻なアルバムは多数ありますが、これほど音楽的にミニマルでかつ異常なまでに豊穣な作品がかつてあったでしょうか。
彼のソロの最初の二枚のアルバムで、彼はほとんど言いたいことを全部言ってしまった感があり、その後に現在にいたるまで出され続けているアルバムには往時のパワーはありませんが、少なくともこのアルバムは、ヒップホップの最高のアルバムの一つでしょう。ギャングスタ・ラップとは何ぞや?と思う人には、この真摯な叫びを聴いてほしいです。