多くのイラストと写真を使うことで、ワトソンは、いわゆる遺伝子工学の「セントラル・ドグマ」であるタンパク質の合成の仕方が記述されているDNAコードを、いかに科学者が解読したかを、熱っぽく解説する。しかし、ここにも特許と企業が進出してきており、ワトソンはビジネスが神聖なる科学の殿堂に侵入していることについての懸念を示す。1975年以降、DNAは生命の分子構造を理解するというアカデミックな世界だけの問題ではなくなった。分子は、世間から孤立した白衣を着た科学者が住む象牙の塔の壁を乗り越え、絹のネクタイと粋なスーツを着た人々のひしめく世界へと広がっていった。
後半の章でワトソンは、実験がどのようになされるかを理解せずに遺伝子を単にいじくりまわすだけの、彼のいうところの「人騒がせな連中」 に対して、辛らつな言葉を投げている。こうした議論によってワトソンは、科学の概念が『Silent Spring』(邦題:『沈黙の春』)以降に科学的概念を形成したという人々には嫌われることになるかもしれない。しかしながら、本書は遺伝子工学を巡る政治的な論戦の両面を網羅しており、ワトソンこそがこの主題を巡る議論の熱烈な発案者なのである。(Therese Littleton, Amazon.com) --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
まずは遺伝を科学の領域で捉えようとしたメンデルの業績から、二重らせん構造の発見、その後の「ヒトゲノム計画」の歴史を振り返る。方程式や化学記号が並ぶ専門書とは異なるのは、人間の社会的営みや歴史的背景の中での意義や批判を軸とした解説を加えている点だ。ナチスの思想に代表される「優生学」の暗い歴史や、先端研究に影響を与える政治的思惑についても、けれん味なく言及する。そのうえで「遺伝は行動や能力を『決定』する因子ではなく、いわばポテンシャル」という見解を示し、遺伝か環境かの議論が時代遅れであることを証明する。
遺伝子組み換え農作物や塩基配列特許の是非論、DNA鑑定など今日的課題についても深い見識を示す。
(日経ビジネス 2004/02/09 Copyright2001 日経BP企画..All rights reserved.)
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後半は遺伝子組み替え植物,DNA指紋,遺伝子療法などの現在のトピックを扱って,やはり抑えた科学者としての叙述.その中にもDNAというだけでどうしてこのように一般大衆から誤解されるのかという深い悲しみが伝わります.内容も中庸をおさえた中にしっかりとした中身があり類書のなかではまず客観的な真実が知りたい場合の啓蒙書としてはもっとも推薦できます.
さらにちりばめられたイラスト,写真が群を抜いて高品質です.この手のものを見慣れている私ですらはっとするような写真,イラストがさりげなく挿入されていて,このイラストだけでもこの本の価格の半分の価値は十分あります.推薦.
80年頃に、大学で「もう生物学で研究可能なことはあるのだろうか」等と考えていた自分の浅はかさを悔やみながら一気に読み進みました。
「不可侵の大御所」としてではなく、常に意見をもち行動に移してきた著者をの50年を追体験できるのは素晴らしいことです。
しかし、解明されればされるほど、その先の道が遠ざかる気もしますね。それでも研究者を駆り立てるものは何でしょうか。
自らの業績を誇示することなく、つまらないレトリックは避け、それでいてユーモアにあふれ、明晰で勢いあふれる文章に魅せられてしまった。回顧録でも論文でも教科書でもない、DNAをめぐるドキュメンタリー。ずばり、面白い。
専門用語は多いが、図表や写真でだいたいは理解できるし、理解できなくても読み進めることはできる。DNAの研究内容を詳細に紹介する本ではなく、もっとマクロの視点でDNAが人の社会に何をもたらしたのか―生物や臓器を改変し、巨万の富を生み、特許裁判を引き起こし、大学の役割を変えてしまった―半世紀の時間の歩みを俯瞰する。
ワトソン氏のこれまでの業績や発言に対してはさまざまな異論・反論があり、本書に書かれていることもすべて鵜呑みにできない気もするのだが、とにもかくにも長く現場に身を置いた人間が書いたものは理屈抜きに面白い。
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