近年、安室奈美恵や浜崎あゆみ、そして倖田來未といったビートやビジュアルで売る若手に圧され、片隅に追いやられてしまったような印象の“歌姫”。40歳になったそうだ。新譜が出たと聞き「どんなアルバム作りをしているのか」と思い聴いてみた。鋭い感受性を備えるがゆえに沈んでいる時の歌は重くなりすぎる傾向があったのと、ささやくような歌唱に偏りすぎて自ら表現の幅を狭めてしまっていた悪癖。これらは果たして改善されているのか―。このアルバムの軸となるのは中盤から現われるシングル曲などだが、かつての伸びやかな歌や振幅の大きなビブラートが甦り「歌姫復活」を思わせる内容だった。ただ残念なのは、せっかく彼女のVoが良いのに対し、人間の手ではなく打ち込みによるドラムを使った事によってバックの演奏が平べったくなってしまい、楽曲としてのうねりが起こるまでに至っていない曲が数曲ある事だ。まさか予算の関係ではなかろうが、安易に打ち込みを使った為の罠に嵌ってしまっている。また80年代テクノ風シンセサイザーの使い方がどうにも耳障りな曲もある。しかしこの歌姫には“歌そのもの”の強さがある。ラスト曲「GRACE RAIN」で披露した歌唱がそれだ。ここでの彼女の声は明らかにノドが焼けて声が枯れているが、この深みと声の抜き方の技法などはまさに「歌姫」たる所以であり、ダンスとノリでしか勝負出来ない人気歌手との決定的な違いを痛感させられる。…時代の移り変わりによりトップスターは変わり流行のサウンドも変化して行く。しかしこの歌姫の歩むべき道は、それらに迎合し競う姿ではないだろう。今後も己れの歌を極めて行く求道者であってもらいたい。それが出来るのが中森明菜であり、この国において唯一無二の存在だからだ。またレコード会社はこの歌姫の存在を決して軽んじてはいけない。なぜなら彼女は、かつての美空ひばりの流れを汲む「歌で人の心を救う」事が出来る最後のシンガーかもしれないからである。