Mariah Careyのアプローチといえば、7オクターブとも言われるその高音であるが、90年代もなかばに入って「高音に頼りすぎ」もしくは「頼りがち」になっていたMariahにとって、この『Daydream』は声の乱用でなく「音楽で勝負する」という彼女の強い野心が見え隠れするアルバムである。
もちろん、Boyz II Menとの「One Sweet Day」やJourneyのカバー「Open Arms」のような曲も収録されていて、ポップな色が薄いとは言い難い。
最近ぶくぶくと太ってしまったが、彼女は当時ほんとうに美しい人でもあった。2005年のグラミー賞でのパフォーマンスで誰しもが彼女のカムバックを喜んだ。僕もそのうちのひとりである。たいへん喜んだ。というのも、Mariahといえば僕の音楽のルーツ、たとえばMadonnaやStevie Wonderのような大きな存在であり、いつもどんな駄作を出しても贔屓にしてきたし、いつもMariahのCDだけは常に家にあったからだ。
しかし我慢ならないのは月なみなバラッド「Through the Rain」を収めた『
Charmbracelet』というアルバムのありさまで、Mariahもここまで落ちたか、と落胆するというか屈辱を受けるというか、そんな印象を受けるのだった。
2005年にリリースした『
Emancipation of Mimi』も傑作には遠く、まだMariahが音楽の質の面でカムバックしたとは言い難い。しかしなんであれ、Mariahに再びスポットライトが当たったわけだ。
この『Daydream』というポップ・アルバムにしてはヘヴィな内容の作品を聴いたとき、なかでもアルバムの白眉ともいえる「Always Be My Baby」を聴いたとき、それは打ち震えるほどの感動を受けたのである。
Mariahがその高音を抑えながら、巧く歌唱をコントロールしているという印象があった。そしてMariahが世界最高のディーヴァの1人であることを再認識させられたのである。
「I Am Free」や「When I Saw You」は、お決まりのバラッドだが、1曲目に流れだす「Fantasy」は、Mariah Careyというシンガーの技巧的にも成熟した歌声を解禁した作品といえる。
TLCを思わせる印象的な「Long Ago」はJermaine Dupriによるトラックで、"Mariah Ballad"特有の旋律が香りたつ「Forever」など全12曲が収録されている。