「A列車で行こう」なら、ご存じデューク・エリントン楽団のテーマ曲でもある、ジャズのスタンダードナンバーである。あの軽快な曲が頭の中に聞こえてきて、何となく、この話も軽快に走ってくれるのではないか、と思わせて思わず手が出た。このD列車は、ドリーム・トレインの意味である。
物語の舞台になるのは、赤字が嵩んで、とうとう廃線が決まった第三セクターのローカル線。生き残るために長年にわたって合理化努力を払ってきていた。そのお陰で、このローカル線、経営効率という点からみれば、日本一かもしれない。そういう優れた鉄道が、年にたかだか数千万円の赤字のために消えようとしている。
この状況に、町工場相手に良心的な融資を実践し、生きたお金の使い方ならよく知っている大手銀行の支店長と、天下りを繰り返したお陰で、巨額の退職金を持っている鉄道マニアの元官僚が手を組み、それに、男社会の中で頑張って生きてきてMBAの資格まで持つ若い女が基本的なアイデアを提供し、全員キャリアを投げ捨てて押しかけ助っ人に乗り出す、という物語である。
ローカル線を救うために三人が繰り出すアイデアは、確かに奇想天外ではあるけれど、決して実現不可能ではないと思わせる。普通、ローカル線を救うためには、何とか地元の需要を呼び起こそうとする。しかし、そうした努力は、地元に詳しい人々の手でこれまでも散々行われて、うまく行っていない。そこで、主人公達は、定年を迎えた団塊の世代にターゲットを絞る。彼等は、金と暇と行動力の三つを兼ね備えている、という、今までの日本に存在しなかった人種なのである。その団塊の世代を、外から呼びんで新たな需要を作り出すという方法で、ローカル線復活の奇手を次々と繰り出すところが、本書の読ませどころである。ちょっと品のない表紙で損をしているが、読んで絶対に楽しい物語である。