やがて太平洋戦争が勃発する昭和十二年、スパイ養成機関として大日本帝国陸軍に設立された通称“D機関”。その創設者である“魔王”こと結城中佐と、彼に指導を受けた“D機関”のスパイたちの活躍を描いた柳 広司の連作短編集『ジョーカー・ゲーム』。五つの短編の中から、最初の「ジョーカー・ゲーム」と、二番目の「幽霊(ゴースト)」を取り上げて、霜月かよ子が作画した本書。質・量ともに、「ジョーカー・ゲーム」の読みごたえが格別。実は昨日、図書館から借りてきて、柳 広司の原作を読んだばかりだったのですが、霜月かよ子の大胆かつ華麗なアレンジに接して、「やるもんだなあ」と堪能させられた次第。楽しめました。
大胆かつ華麗なアレンジ、その一。原作よりも、三好少尉(D機関のスパイのひとり)を大きくクローズアップして描いている。こうすることで、佐久間中尉に象徴される戦時の常識、軍人の思想や行動とは全く異なるスパイの個性を浮き彫りにしている。特に、三好が口の端でにやりと笑う絵が印象的。
大胆かつ華麗なアレンジ、その二。漫画の冒頭で「あれっ?」と意表を衝かれたのだが、原作とは違う順番にして、話を提示、展開させていったところ。原作と比べて、この漫画版のほうが、シリーズ最初の話として掴みやすい気がした。
大胆かつ華麗なアレンジ、その三。原作にはない漫画の描写が、作品の雰囲気にぴたりとハマっていたところ。なかでも見事だったのが、ラスト、佐久間の肩に桜の花がひとひら、舞い落ちるシーン。心憎いばかりの漫画家の想像力に、唸りました。
この「ジョーカー・ゲーム」と比べると、もうひとつの「幽霊(ゴースト)」ははっきり、物足りなかったですね。原作のほうが、数段、面白かった。ただし、漫画のラスト三頁は、原作とはまた違うひねりが加えられていて、そこは気が利いているなあと。
『ジョーカー・ゲーム』の原作のあと三編、「ロビンソン」「魔都」「X X(ダブル・クロス)」を、霜月かよ子がどんな風に描いて見せてくれるのか。殊に、一押しの「X X(ダブル・クロス)」の霜月・漫画バージョンが楽しみ。