フライング・ロータスことスティーヴン・エリソンは米トラックメイカー兼プロデューサー。親族にジャズ・ピアニストのアリス・コルト
レーンと巨人ジョン・コルトレーンを持ち、その他も音楽家を多く産出するまさにサラブレッドの血統を引く。幼少から吸収した
多彩なジャンルの音楽の素養を絶妙に織り交ぜる独自の感覚をもった新世代の精鋭トラックメイカーの最右翼として期待されて
いる人で、本作は彼の3枚目。
本作収録の音楽には彼の持つ膨大な音楽知識と手法が遺憾なく発揮され、簡単にジャンル分類を許さない。聴く方は冒頭から
不意に仕掛けられる、高圧ブレイクビーツと電子音の激流にただ圧倒されるが、次第に驚きを通り越して音楽に快楽と美しさを
感じるようになり途中で作品を止めることができない程の中毒症状になる。収録された全17曲(ボーナス・トラック除く)は約2〜3
分の尺で次々に流れていくが、1曲の中でさえ曲調が変わりその度斬新なアイデアに驚きを覚え、全尺45分が異様に短く感じる。
エリソンの音楽の特徴としてまず、ヒップホップに多大な影響を受けたと公言する彼らしく、全編に貫かれるスリリングなブレイク
ビーツがある。ビートを刻む手段は様々だが、絶えずパターンを変えながらも刻み続けられるリズムによって音楽が極めて聴き
易くなっている。さらにその秀逸なビートに乗る上物もひっきりなしに姿を変える。ある時は未来的な感触の高圧電子音攻撃、時
にはメランコリックなアナログ楽器(弦・ハープ・ギター等)の音や人の声、さらにはそれらの要素が同時に交錯する様は何より聴
いていてぞくぞくする程格好良いし、耳に心地良いことこの上ない。さらに構成も良く練られており作品内での緩急の付け方が絶
妙なため、密度の濃い音楽にも関わらず不思議と聴き疲れを感じさせず、終わった後は衝動的に冒頭から再びリピートしたくなる。
これ一枚を聴くだけでも、ジャズ・テクノ・ヒップホップ・クラシック・ソウル・現代曲…と彼が今まで通過してきた広大な音楽系統図が
くっきりと浮かび上がる素晴らしい仕上がり。秒単位で鮮やかに形を変える最高に洗練されたミクスチャー、強く推したい。