弓島珈琲店を舞台に、かつて婚約者を死なせてしまった「僕」ダイの語りによって、誘拐事件?から麻薬の密売へとつながってゆきそうな事件が起きます。
小学生の少女が「おねえさんが行方不明」と助けを求めてくるのに対して、僕や、元女子プロレスラーの丹下さん、ビリヤード店主苅田さん、学生時代の友人の教師小菅、近くの高校生のふたり、犬のクロスケなど、ゆっくりとしたペースで紹介される面々が活躍します。
連載だからだと思うのですが、話の進みかたがかなりゆっくりで、もう少しメリハリが欲しい気はしました。しかし、これまで読んできた作者の作風からしても、アップテンポのミステリを書く人ではなく、事件という波紋が投げ込まれたあと、登場人物たちがそれぞれの思いに浸り、またお互いを見直し、絆をゆっくり確かめあう、という暖かさが本領なのだと思います。
そういう意味ではキャラクターがみなそれぞれに立っていました。特に刑事の三栖さんがひじょうに立体的に描かれていて、オフのときのまったくの気配のなさから、刑事のスイッチが入ったときの変化など、人間観察が見事でした。
ダイ自身が主導権をとって采配をふるうことはなく、むしろまわりの人々に応援され、アドバイスされて、全員で事件に取り組んでゆきます。
大詰め、珈琲の出前をもって謎のプレハブに押し入る丹下さん、屋根から飛び込む高校生、木刀をもってつっこむ小菅、何とも胸がすく一幕。
そして事件はいちおう解決し、三栖刑事だけがハードボイルドに決めます(かっこいい!)。そして彼から、おまえはかかわったたくさんの人の人生を心配し、案じ続けて生きてゆくんだ、と言い渡されるダイ。「ブルースが流れつづけるってわけさ。おまえの人生には」
これがミステリの余韻として、作者の言いたかったテーマではないかと思います。一件落着で締めないのが、作者の手腕で、この珈琲店がこれからも日常のなかで、ほろ苦く、暖かく生き抜いてゆくことを予感させます。