権力によって破壊されてしまった、今はなきチカーノ・コミュニティー(チャベス・ラヴィーン)の悲喜こもごも。中上健次やガブリエル・ガルシア=マルケスを彷彿とさせる世界観。セカンドライン、マリアッチ、テックスメックス、ルンバ、R&Bなどのリズムに載せて語られる人間模様・・・伊達男、跳ねっ返り娘、音楽、ダンス、車、マッカーシズム、謀略、金、喧嘩沙汰、ブルドーザー、破壊・・・、テーマは非常にシリアスなものだが、その音楽の響きはむしろユーモラスですらある。
特に、終わりの方で、かつてあった我が家を幻視しつつ「俺の家はドジャースタジアムの3塁あたりだ」と歌う親父の歌声は、虐げられてそれでも生きていく人たちが醸す諦念とユーモアを見事に表現していて聴き入ってしまう。
狂言回し的に登場し、CDを通して超越的な視点でコミュニティーを見守るUFO(そういえばアルバム"The Slide Area"の1曲目は"UFO has landed in the ghetto"だった)は、子どもの頃近くにありながらチャベス・ラヴィーンには行ったことはなかったという現在のライ・クーダー自身の視点なのかもしれない。また、3曲目「ドント・コール・ミー・レッド」でフランク氏を演じるライの心境や、今なぜチャベス・ラヴィーンを舞台にしたこのようなアルバムが制作されたのか等、アルバムにちりばめられた要素から様々な意味を読みとっていくのも面白いし、そうでなくとも1曲目「プア・マンズ・シャングリラ」などで聴ける、弾けるようなジム・ケルトナーのドラムやさりげなくも存在感のあるライのギターのかっこよさ、入れ替わり登場するゲスト・シンガーの歌声の味わいなどを純粋に楽しんでもいい。