内容紹介
グレゴリオ聖歌からハリウッド映画音楽まで??
作品や史実のみならず、斬新な切り口で作曲家、指揮者、 演奏家をも語る。
新たな視点からの西洋音楽史入門!
音楽体験とは常に、「過去とのコミュニケーション」でありたい。
音楽に機能主義的な完璧さを求めるモダニスト。
巨匠の大振りな演奏との出会いを渇望する復古主義者。
クラシック音楽の解釈はコラージュないし異化という形でのみ可能だと感じるポストモダニスト。
どの方向の演奏もそれなりに楽しもうとする折衷的な教養主義者。
もちろん、解釈の方向性などどうでもいいと思う人もいよう。
だが快原理のみにひたすら従う脱歴史イデオロギー的な聴き方もまた、
ポストモダン以後の音楽状況を特徴づける一つの歴史的態度だろう。
プレトニョフのしっちゃかめっちゃかなベートーヴェンを聴いて、
それを面白がるのも、苦々しく舌打ちするのも、どちらも音楽史への態度表明なのだ。
─岡田暁生 「まえがき」より
レビュー
強烈な個性が渦巻く 西洋音楽に具わった生臭いまでの力
評:小宮正安(横浜国立大学准教授・ヨーロッパ文化史・ドイツ文学専攻)
岡田暁夫の『西洋音楽史』といえば、以前当欄でも評した新書が思い出されるが、本書はその姉妹編といったところ。
ハンドブック・シリーズからの一冊ということで、51点のディスクを取り上げながら、西洋音楽の歴史を紐解いてゆく。
前著でもそうだったように、本書においても著者がまず明らかにするのが、自らの立ち位置だ。
引用すれば、「音楽体験とは常に、『過去とのコミュニケーション』でありたい」という姿勢に他ならない。
西洋音楽に接する場合、過去といかに向き合うかという点から全ては議論されるべきで、
そうでないと単に好き嫌いの水掛け論に終わりますよ、というのが著者の考え方である。
岡田ならではの直截的な態度表明や、今回も潔し。
ではどのような曲やディスクが選ばれているかという点なのだが、これまた著者の言葉を借りると、
歴史の「カタログ」ではなく「文脈」を感じさせるものばかりだ。
またそのためであれば、海賊盤の紹介も厭わないあたりが大胆である。
ちなみに海賊盤が取り上げられているのは、19世紀の成金ブルジョアたちが飛びついた超絶技巧の演奏テクニックを扱った項。
それが如実に分かるディスクとして、正規の録音以上に演奏のあざとさが分かる海賊盤を薦めるといった次第である。
レビュー
承前
そうなのである。西洋音楽とは、どこかの国の中学高校で教えこまれるような四角四面の黴臭い情報の山などではない。
強烈な個性がこれでもかと渦巻くヨーロッパが生み出した途方もない音の渦であり、そこから飛び散るしぶきに聴き手は容赦なく襲われる。
そんな西洋に具わった生臭いまでの力を、従来の音楽史で等閑視されてきたテーマに幾つもの章を割くことによって、著者は炙り出してみせる。
具体的には、中世の教会における意外なまでの猥雑な典礼風景、クラシック音楽とハリウッド映画の密接な関係など、
「正統」な音楽研究ではおよそ見向きもされなかったような題材ばかり。
しかも、最終章がふるっている。サブ・タイトル「演奏における歴史の過剰について」からも分かるとおり、
レコード産業のもたらした新たな局面と、その閉塞状況を指摘して本書は幕を閉じるからだ。
作曲技法の上でほとんどの実験がなされてしまった20世紀前半以降、行き詰まりを打開するかのように登場したのが、
複製技術による過去の名演の再生だった。しかしその一手でさえ今やすでに飽和状態に達してしまっている、というのが著者の見解である。
だからこそ、ディスクを選定する行為一つをとっても、単に西洋音楽ははいいですよ~といった、
この手の本にありがちな無邪気な無批判性などは、かけらも見られない。西洋音楽の未来に対して限りない疑問を抱きつつ、
それでもこのジャンルを愛してしまった著者の因果な立場が浮き彫りになっている。何ともほろ苦い結末である。
ただし、気になる点を一つだけ。前著では18世紀後半から19世紀末にかけての一般的な「クラシック音楽」を中心に、
そうしたバイアスをも含めた西洋音楽史が語られていたのに対し、本書ではそれ以前の音楽にも多くのスペースが割かれてしまっていて、
肝心の「クラシック音楽」への掘り下げがイマイチか。著者が忌み嫌っていた、歴史を過不足なく眺めようとする自己欺瞞的な態度に、
著者自身が無意識に絡め取られているのでなければ全く問題はないのだが。さて…。
著者について
岡田暁生(おかだ あけお)
1960年、京都生まれ。大阪大学文学部博士課程単位取得退学。ミュンヘン大学およびフライブルク大学で音楽学を学ぶ。
現在、京都大学人文科学研究所准教授。文学博士。
『〈バラの騎士〉の夢』(春秋社、1997年)でデビューし、『オペラの運命』(中公新書、2001年)でサントリー学芸賞を受賞。
そのほか『西洋音楽史』(中公新書、2005年)、『恋愛哲学者モーツァルト』(新潮選書、2008年)などの著書がある。
NHKにて好評放送中の音楽番組
schola(スコラ) 坂本龍一 音楽の学校にゲスト講師として出演中!
【放送内容】
第1回から第4回までは「J.S.バッハ」をテーマに
浅田彰、小沼純一とともにゲスト出演。
【放送予定】
NHK教育 毎週土曜日 23時45分~24時14分
【再放送】
・NHK教育 毎週土曜日 10時30分~10時59分
・NHK衛星第2 毎週火曜 16時30分~16時59分
※放送期間:2010年4月~6月
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
1960年、京都生まれ。大阪大学文学部博士課程単位取得退学。ミュンヘン大学およびフライブルク大学で音楽学を学ぶ。現在、京都大学人文科学研究所准教授。文学博士。『「バラの騎士」の夢』(春秋社、1997年)でデビューし、『オペラの運命』(中公新書、2001年)で、サントリー学芸賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)