単なる総花的なクラシック音楽の紹介や音楽史の本ではありません。田村流の楽曲分析の本です。一見入門書の体裁ですが、「カラー版 徹底図解」という点に特徴があります。したがって、取り上げられているのもかなり凝った作品です。CDはナクソス音源です。「グレゴリオ聖歌<怒りの日>」「ジョスカン・デ・プレの<アヴェ・マリア>」「ガブリエーリの<ピアノとフォルテのソナタ>」「パーセルの歌劇『ディドとエネアス』」「ヴィヴァルディ『四季』」「バッハの<小フーガ>」「バッハ管弦楽組曲第3番<エール>」「ヘンデル『メサイア』」「ハイドン『皇帝』」「『フィガロの結婚』より六重唱」「ピアノ協奏曲第20番」「交響曲<運命>」「シューベルト<魔王>」『幻想交響曲』『トロイメライ』「前奏曲<雨だれ>」「メンデルスゾーン『ヴァイオリン協奏曲』」「リストの交響詩<前奏曲>」「ワーグナー楽劇『トリスタンとイゾルデ』」「ブラームス『交響曲』第1番-第3番」「フランク『ヴァイオリン・ソナタ』」「交響曲第9番<新世界より>」「サティ<3つのジムノペディ>」といった選曲。
意外なことにソナタ形式が『フィガロの結婚』を例にとって説明されます。もちろん『運命』の第1楽章もソナタ形式なのですが、それ以前の交響曲と異なり、コーダがもっとも肥大化し盛り上がることでベートーヴェンの技法が説明されます。シューベルトの「魔王」の分析は以前の本でも田村氏の見事なところです。シューベルトは魔王には長調を、息子には短調を、父親にはそのどちらでもないか、またはどちらかをさまよっている調を設定したのです。標題音楽を解説するのは難題ではないでしょうが、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲にロマン派の一回性の美学を、ブラームスの交響曲に歌曲の旋律志向を読み取るのは、卓見といえるでしょう。現代につながる音楽としてサティーで終わっているのはいささか残念です。
坂本龍一が『スコラ』で強い影響を受けたと告白しているラヴェルやドビュッシーの楽曲分析も読んでみたかった。