ギュンター・ヴァントは生涯にかけてブルックナーの交響曲に取り組んだ人だが、その録音業績はだいたい以下の3つに分かれる。
(1) 1974年から81年にかけてケルン放送交響楽団と録音した全集
(2) 80年代後半に北ドイツ放送交響楽団とした一連の録音
(3) 90年代にベルリンフィルとした一連の録音
それで、これはその(1)にあたる。第1、第2交響曲はこれが唯一の録音となる。それにしてもヴァントのブルックナー録音は、巷で出回っている様々な音源を集めると相当なもので、よくもまあこんなに同じ曲を何度もやったものだと感心してしまうが、買う側からすると困りもので、いったいどれをチョイスしたらいいものやら見当もつかない。
この指揮者の評価が日本で上昇したのは90年代くらいからのような記憶がある。それまではあまりメジャーな人ではなく、私はまだ大学生のころ、中古レコード屋で、1枚500円くらいで売られていた全集から、当時あまり枚数を所持していなかった第6番だけ購入して聴いていた記憶がある。当時の印象はそれほど強くないが。
それで、その全集を改めて聴くこととなった。ここからは個人的な感想だけれど、ヴァントのブルックナーでは私は断然(1)の時期のものが好きである。おそらく、国内的に最も評判が高いのは(3)なのだろう。しかし(3)はどうも大人し過ぎるというか、内省部を一生懸命やろうとするあまり、下から突き上げるような推進力に不足するところがあり、音楽の「厚み」が一様過ぎると思う。聴いていて面白いのは断然(1)なのである!
ケルン放送交響楽団との録音の面白さは、朴訥とした語り口ながら、力強く咆哮するようなエネルギーがあちこちに満ちていることである。そう、例えば第8交響曲の第4楽章冒頭。ザッザッザッザッという弦の刻みからなるファンファーレの衒いのない気風の良い鳴りっぷり、第9交響曲第1楽章コーダの渾身のフォルテ・・いずれもその後のヴァントの表現においてプライオリティーを下げられてしまったものたちがこれほど生命力に溢れて輝いていたとは。
いま現在「ヴァントのブルックナー」と言うと、80年代後半以降のものを指す傾向があると思うけれど、確かにあったこのケルン放送交響楽団との輝かしい記録を忘れてはいけないだろう。
なお第1番はウィーン版を使用している。第7番の第2楽章はシンバルなし。