雑誌『考える人』(5月号)の小欄で武藤康史がこの朗読のカセット版を愛聴しているということを知り、気になっていた。それ以来カセット版を購入しようかどうか迷っていたが、ここでタイミングよくCD版が発売された。天にも昇る心地である。
これはもちろんunabridged版で、CDは10枚組、収録時間は11時間21分となっている。CD1枚あたり400円と考えるとお買い得である。大げさだが、英文学をかじった経験があり、イギリス英語に憧れを感じており、ジェレミー・アイアンズのファンであり、原書を読破したいと思っている私にはもうこれ以上の商品はない。特に原書の英語はかなり難解でこれまで何度もチャレンジしたが、冒頭の「プロローグ」でいつも挫折していた。今度こそはこの朗読版の助けをかりて全編読破に挑戦してみたい。
さて、購入したばかりでまだ全てを聞いてはいないが、前半部を聞いただけでも、ジェレミー・アイアンズの朗読がいかにすばらしいものかがわかる。読むだけではわからなかった雰囲気みたいなものをうまく表現しているところはさすがである。例えば、「プロローグ」の後半、主人公のチャールズ・ライダーがブライズヘッドという地名を思い出す短い回想シーンは感動的である。その名文をここに引用する。
He told me and, on the instant, it was as though someone had switched off the wireless, and a voice that had been bawling in my ears, incessantly, fatuously, for days beyond number, had been suddenly cut short; an immense silence followed, empty at first, but gradually, as my outraged sense regained authority, full of a multitude of sweet and natural and long forgotten sounds: for he had spoken a name that was so familiar to me, a conjuror's name of such ancient power, that, at its mere sound, the phantoms of those haunted late years began to take flight.
ジェレミー・アイアンズはこの一節をゆっくりと静かに読み上げる。私はこの部分だけでも十分に元を取ったと感じたのである。武藤氏に感謝したい。