ロバート・アルトマンの初期のカルト作。
アルトマン映画って、そのアンチ・ハリウッド的な作劇ながら、国内では映像ソフト化が進んでおり(この度、晴れて「プレタポルテ」も初DVD化された)、意外と目に触れる事が出来るのだが、今作は、そのフィルモグラフィーの中でもユニークかつ重要な位置づけをされているにも拘わらず、未だにソフト化されていない。
一昨年、70年代アメリカン・ニューシネマ特集として、40年振りにリバイバル上映された際に同時公開された「ハロルド&モード」や、昨年公開の「ナッシュビル」が相次いでDVD化されている今日、国内ソフト化を望む方も多いのではないか。
日本公開名「BIRD★SHT」、即ち、“鳥の糞”(笑)。日本でも一躍脚光を浴びた前作「M★A★S★H」を過分に意識したタイトルなのは容易に察知出来るが、原題は“BREWSTER McCLOUD”。つまり、これは、鳥の如く大空を飛ぼうとする孤独な若者ブルースター君の物語。
どんなお話なのか御存知ない方の為に簡単に紹介する。
テキサスのヒューストン、当時アメリカでも唯一の屋根付き球場として有名だったアストロ・ドームの地階の1室にひっそりと住みついている若者が居た。彼の名はブルースター・マクラウド。彼には秘かな望みがあった。それは、鳥のように大空を飛びたいとの欲望だ。
そんな孤独な彼に影の如く寄り添っている女性(サリー・ケラーマン)。彼の望みを叶えるべく何かと助言や支援を行う彼女だが、彼女の行く処、必ずカラスの羽ばたきがする。
物語はその後、若者の野望の往く手を遮る者たちが次々に殺されていくミステリアスな展開となる、しかも彼らの死体には例外なく鳥の糞がかけられているのだ。
若者をコントロールしていくケラーマンだが、彼には、初めて異性として意識するシェリー・デュバルが現れて、、、。
多彩な登場人物たちが織りなす群集劇にお馴染みの多重会話。ペキンパーみたいなスローモーション映像もある(笑)。
ハードボイルドにポリスアクション、コメディ、更にカ―・アクションまでも軽妙に取り入れたいかにもハリウッド映画的な作劇だが、モチロン、アルトマンゆえにシュールでシニカルな笑いが満載。
調子っ放れした「星条旗よ永遠に」を歌う歌手、まるで「ブリット」のマックイーンみたいにキメまくる刑事(演じるのはマイケル・マーフィだから全然格好良くない)、守銭奴で高圧的な偉人の兄である老人(これまた演じるのがステーシー・キーチ!)、高説を振りかざすうちに自らも次第に鳥のような風貌になってしまう鳥類学者等々、アメリカ的なモノや権威がコケにされる直載的なパロディを楽しみながらも、今作が輝いているのは、やはりラスト・シークエンス。
「どこに向かって飛ぶのか?」の問いに、「ただ遠くに」とだけ答える若者。自由と解放を夢みながらも、ようやく飛翔を果たしたのは、屋根があるアストロ・ドーム。
所詮はカゴの中での脱出。若者に待ち構えていた過酷な現実。結局、閉塞感からは逃れられないニュー・シネマ的なタッチなのだが、アルトマンはそれさえもパロディっぽく、シニカルに対応する。
ラストのカーテン・コールに注目して欲しい。フェリーニの「81/2」から引用したと言われる登場人物が一堂に会するこのシーンでも(そして以来、この方式はアルトマンお約束の幕引きの手法となる)、アルトマンは若者だけは決して生き返らせない。
まるで、死と共に時代の殉教者であるかの如く偶像化される神話性を冷ややかに見つめているように。
アストロ・ドームは出口のないアメリカ国家と隠喩したとの見方があり、それは長年卓見だと思っていたのだが、アルトマン曰く、元々は、NYのケネディ国際空港のTWAのターミナルで撮りたかったらしい(笑)。
ことごとく、アイロニーに溢れた監督である。なんか、鈴木清順みたい。