作者の作品は初読。5編を収めた中短編集だが、冒頭のタイトル作を読み始めて驚いた。「鳥獣戯画」の昔から動物や物体の擬人化は良く見られるが、何と数学上の概念を擬人化するとは...。
タイトル作の語り手は、ある高次元射影空間上の構造"レフラー球"であり、自身の発見者である数学者レフラーの初恋を語るという奇想天外な設定。"レフラー球"はmorphismであり、その構造は本質的に無限循環である。読者が本を読んで何らかの意味に解釈する事をmorphismと捉え、その本質を解体した作品に映ったが...。理解出来ない事が特徴だとも思われる。次編「Goldberg Invariant」も、一見エージェント指向の自然言語自動認識・生成を扱った近未来SFのように見えて、実は上述の"メビウスの環"的構造で、小説における階層の破壊を試みたもの(だと思う)。「Your Heads Only」は、読者をチューリングマシンとして、作品をそこからのアウトプットとして(あるいはその逆として)捉えたゲーム感覚に溢れた作品。それでいて作者の美意識を発露した作品でもある。ここでも"メビウスの環"的構造が繰り返される。「Gernsback Intersection」は、大胆なメタファーを用いて、読者の想像力の"極限"の産物が作品であると訴えたもの(だと思う)。要するに良く分からないのだが、見た目のユーモア感に比して作者の思惟の深さが窺える。自作解説を装った最後の「What is the Name of This Rose ?」がまた悩ましい。
数学・プログラミング上の概念・用語のオンパレードである事も手伝って読み手を選ぶ作品。だが、作者の知見と諧謔が楽しめ、未体験の刺激を求める方にはお勧めしたい。