本作は20世紀を回顧するように1920年代から70年代の曲を流麗なオーケストラの調べ、ピーター・アースキン等のリズムをバックに、ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター等をゲストに迎えてジョニが円熟した声で丁寧に感情を込めて歌いあげるシンフォニック・ジャズ・ボーカル・アルバムの金字塔。昔のように高音に張りのある声ではないが、本作では若干かすれ気味の声がオーケストラの中に溶け込む感じで実によい。
本作がよくあるスタンダード・ナンバー集と一線を画す理由は、上記サウンドの魅力以外に、曲順に沿って、恋に落ち、ときめき、やがてうまくいかなくなり、悩み、結局別れ、いい友達でいようとふっきれたのも束の間、また恋におちたいと願う、ジョニ自身を思わす恋多き女の物語を一編の映画で観せるが如く選曲・配置している構成の見事さ。離婚後もジョニのバックを勤め、本作では序文を寄せ、ジョニとともにプロデュースしているラリー・クラインとの関係も反映しているのだろう。そのように年輪を重ねたジョニの魅力を特に実感するのは「ケース・オブ・ユー」と「青春の光と影」のセルフ・カバー。前者は本作の中ほどで千路に思い悩む場面に使われ、後者は本作の最後で、「人生がどんなものか私にはいまだにはっきりとは判らない」と総括する。本作のために書かれた作品であるかのごとくにこれら永遠の名曲に光を当てるジョニの卓越したアイデアに感嘆する。30年の時を経て蘇る名曲の豊潤な香りの何と素晴らしいことか。
なお、ジャケットや歌詞パンフレットに散りばめられた絵は毎度のことながら秀逸。禁煙のサインが出ているバーで紫煙をくゆらすとはいかにも彼女らしい。