マキューアンの「アムステルダム」の軽快なテンポと垢抜けとした文体(これは翻訳者の方の手腕でもあるが)に魅せられ、次いで読んだ「愛の続き」では病的な人間心理を鋭く描き出すその手腕に舌を巻いた私が次に求めたのが「黒い犬」だった。正直言ってやや失望した。マキューアンの比較的初期の作品らしいので、まだ成熟への過程にあるからかもしれないが… 要するに物足りなかったのだ。西洋近代的思考と神秘性を重要視する思考との対立を描いているのだが、こうした概念を小説という形で表す事の難しさを改めて知ったようにも思った。