イギリスのオペラハウスの映像を見ると、合唱団の演技力に驚きますね。やたらと芸が細かい。今までのDVDでは、映像の解像度に限界があって、合唱団の表情やなにかまではわからなかったと思うのです。大体、実際の舞台に足を運んだ客にだって、よく見えないんじゃないでしょうか。しかし、ものすごい芝居、やってたんですね。ブルーレイでわかりました。
第1幕の衛兵交代シーンの子供たち、なんだか裏設定があるみたいで、浮浪児の兵隊ごっこに紛れ込んでいた金持の子供。結局、身なりの良い両親の元に戻っていきます。そこかしこで同様の細かい動きがあります。第3幕のミカエラがホセを連れ戻そうとするシーン。密輸入者に扮した合唱団は、ナイフを振り回すホセに銃を突きつけます。冷たい表情で、ホセの動きに合わせ、銃口も動きます。しかし、ミカエラがホセの母親が危篤であることを告げたとき、銃を突きつける女性の一人が、つらそうな表情をするのです。さりげなく、目立たない範囲で。第4幕の子供たちの演技もすばらしい。客席側を指さしてわくわくする目の表情で、むこうからやってくる闘牛士たちの華やかさを伝えてくれます。本当に馬や何か何頭も舞台に出してしまう演出より、臨場感があります。
摩訶不思議な演出が大勢を占めるようになって久しいオペラの映像作品ですが、(それはそれでおもしろいのですが)合唱団の演技力だけで、こんなにカルメンが新鮮になるのですね。一人一人がなりきってやっているので、たとえ個々の表情にまで目が行かなかったとしても、全体の臨場感がぐっと増してくる。おかげで、ひととき、バーチャルな空間で遊ぶことができる。やはり、舞台は夢の世界であってほしいものです。