上原ひろみによる2008年の作品です。アルバムタイトルからして「これは地雷を踏みそうだ」とは思いましたが、なにせ個人的には大のお気に入りのデヴィッド・フュージンスキーがギターとして参加しているだけに、問答無用に購入しました。
こうした「スタンダードカバー」は私が書くまでもなく、一日千秋のごとく繰り返されてきたわけで、その時代、プレイヤーの感性のままに作り上げていけばいいのではと思っています。だってどんな新作でも世間の風に触れた瞬間に、スタンダード化していく運命にあるのです。しかし、いわゆるジャズ畑における通好みのファンからは「こんなのスタンドナンバーとは言えない」などと小言を頂戴する運命にあることは事実。特にクセもの「デヴィッド・フュージンスキー」はロック畑のファンにとっても異端児的存在で、とても一般受けするタイプのミュージシャンとは言えません。そんなキワモノを相方として迎え入れた上原ひとみの「男気」には感服せざるを得ません。フュージンスキーは自身の「Punk Jazz」でさまざまなスタンダードナンバーを木端微塵に叩きくだした「前科」がありますから、よけいにそう思えます。
自由に天衣無縫に飛翔する上原ひろみのプレイは、いつもながら自由性に富み、かつ温かみにあふれています。鬼才・フュージンスキーは意外にも抑えめにサポートすることに心掛けているのか、きちんと丁寧に弾いているように思えます。しかし、Jベックの『レッド・ブーツ』も彼女にとってはスタンダードなのかと思うと、さすがに寄る年の波を感じ入ってしまいました。ジャズピアノファンはもちろん、広くロック・プログレファンにも聞いていただきたい痛快作です。