1970年代後半、日本に訪れたクロスオーバー・ブームには色々なジャンルから多数のミュージシャンが参画した。当時このジャンルに関わったミュージッシャンを挙げると、あのナベサダを始め増尾好秋、松岡直也や向井滋春といったジャズ畑出身者、竹田和夫や森園勝敏、山岸潤史といったロック畑ブルース畑のギタリスト達、さらにはネオティブ・サンやプリズム、浪花エキスプレスにカシオペアといった強力な新人バンドも登場した。そしてこれらクロスオーバー・ムーブメントのひとつの最終到達点となったのが、このKYLINだったと思う。坂本龍一と渡辺香津美を中心として結成されたこのユニットは、当時のクロスオーバーを総括したような楽曲を並べ、さらにはその後盛り上りを見せることになるテクノ・サウンドの礎とも言うべき楽曲をも同じアルバムの中で披露してみせた。当時このアルバムを聴いた時のショックは忘れられない。「クロスオーバー」という、限りなく無限の可能性を感じさせるような響きを持ったジャンルの中で、多くのミュージシャンは“行きつ戻りつ”を繰り返すしかなかったという“単なる袋小路”でしかなかったこのジャンルの正体を、坂本龍一はこの時すでに読みきっていたのではないか。村上ポン太や向井滋春、益田幹夫や本多俊之といった“その世界”のミュージシャンらを集め、いとも簡単に結論付けしてしまったのがこのアルバムだったように思えてならない。「坂本龍一恐るべし」を痛感したものだった。アルバムの中身は確かに凄く、各人のテクニックが存分に発揮された上に退屈するような楽曲は1曲もないという秀作。一応香津美が中心に据えられているものの、村上ポン太と小原礼のリズム隊が“いい仕事”をしている事と、坂本龍一と益田幹夫の鍵盤がすばらしいコントラストを形成している事を特記すべきだろう。このアルバムを境にして日本のクロスオーバーは急速に拡散して行ったと言っていい、分水嶺的作品だった。