これまで多くの作家のデビュー作に接してきたが、ここまで完成度の高い作品にお目にかかったことはない。登場人物の数も少なく、場面設定も日常の生活空間にほぼ限定されているのだが、謎が謎を呼ぶミステリーの世界に読者は一気に引きこまれ、そうなったら最後、ページをめくる手が止められなくなること請け合いだ。主題はAMNESIA、記憶喪失である。小川洋子の「博士の愛した数式」という作品があるが、同じ記憶障害を主題にしながら「博士…」が一種ヒューマンドラマであるのに対して、こちらは心底怖いサイコサスペンスである。
物語は主人公がある朝見知らぬ男のベッドで目覚め、その男が自分の夫であることを知るところから始まる。主人公はすべての記憶を失っている。彼女が留めておけるのはその日一日の記憶だけ。ひとたび眠りにつくと、次の朝には再び夫の顔も忘れて目覚めるのだ。彼女は精神科医の助けを借りて、一日ごとの日記を書くことによって、必死に自分の過去を取り戻そうとするのだが…。
その出来栄えの素晴らしさは出版前から注目を集めていたようで、2011年6月初版出版時には、すでに世界の30の国での翻訳が決まり、リドリー・スコット監督が映画化権を獲得してたいう超話題作であるらしい。さらに驚くべきことは、作者 Watoson は Academy Writing a Novel course で小説の書き方を学び、その集大成として書き上げたのが本作品なのだという。おそらくは小説界における最高傑作として、今年度中に日本でも日本語版がベストセラーになるに違いないと確信している。