一時代を画した指揮者カラヤンとベルリン・フィルハーモニーによる,グラモフォン・レーベルへのベートーヴェン録音の集成である.交響曲・序曲全集のほか,カラヤンが力を入れた「ミサ・ソレムニス」はもちろん,戦争交響曲「ウェリントンの勝利」や『エグモント』への劇音楽,三重協奏曲,その他若干のマイナーな曲がスター指揮者の再現できける点に魅力がある.複数回の録音がある交響曲やミサは,最後のデジタル録音が採用されている.一方,ピアノ協奏曲は,グラモフォンにはエッシェンバッハとの第1番しか残されていないということで,EMIのワイセンベルクの録音で補い,結果的にワイセンベルクの全集のうち第1番だけが置き換えられた変則な形になっている.ヴァイオリン協奏曲は,少女時代のムターの演奏.
いうまでもないが,ピアノ協奏曲は別として,これは「グラモフォン」への「カラヤンによる」ベートーヴェン演奏という限定のあるセットである.しかし,ベートーヴェンの管弦楽作品集として,レパートリー的にそれなりの包括性がある.演奏については,おおむね最上級に属すると言ってさしつかえないと思う.良くも悪くもカラヤンのベートーヴェン録音の到達点である.先にも触れたように,あまりなじみのない曲が60年代70年代にカラヤンが完成度を求めた演奏で収められているのは価値がある.これまでも単独では集めにくかったので,入手するよい機会だともいえる.協奏曲は,エッシェンバッハやムターなど若い時期のものだし,ワイセンベルクも順応性が高いからこそカラヤンの録音で独奏者に選ばれたと思われる.したがって,いずれにしてもカラヤン色が色濃いと考えられる演奏だが,最上ではないにしても独奏者を含めて水準は高い.交響曲については多くが語られているが,ミサを含めて,種々の要因で録音に「時間をかけられなかった」印象があるものの,それだけに晩年のカラヤンの率直な思いが表れている気もして,わたしは嫌いではない.カラヤンには,より完成度の高い同曲異演があるとは思うので,評価の星は4つにとどめたが,それでもこれらが世の多くの録音の中で卓越したものに属することには,広く同意が得られるだろう.総合評価で星5つでもおかしくない.
録音は,アナログ時代のものも含めて(あるいはアナログ時代の方が)十分に美しく,鑑賞に全く問題はない.包装は,すっぽり蓋をかぶせる方式の地味な外装の紙箱に紙ジャケットに入った12枚が重ねられている廉価版セット仕様で,トラック・演奏者・録音データを記したブックレット付.
わたしの場合,デジタル版交響曲全集をはじめ,既に所有している録音も少なくなかったし,放送で耳にしたことがあったり,そうでなくてもだいたい想像がついたりするものが大半でしたが,マイナー作品込みで集められて省スペースになることなど,利点と価格とをいろいろ対比し,購入に至った次第.というわけで,内容は想定どおりの水準で文句のあるはずもなく,加えて,お徳用のセットものを手に入れて,収集欲的にも満足でした.