入手から9カ月でようやく完聴。大型企画が相次ぐ箱物の中では地味な存在だが、これは実に素晴らしいセットであった。
仕様は08年リリースのヴァイオリン箱とまったくおなじで、厚さ7センチのクラムシェルボックスに透明丸窓付き紙スリーヴで35枚のCDを収容。ブックレットも必要最小限の簡素なものだ。なお収録曲リストと詳細な録音データはデッカの公式サイトhttp://www.deccaclassics.com/に完備されている(全曲試聴つき)。
内容は19世紀半ばのアダン作「ジゼル」から、20世紀半ばのハチャトゥリアン/プロコフィエフ作品まで、美と革新に彩られたバレエ音楽の代表作を網羅。ラスト2枚の小品集にはバロック時代の舞踏作品も収容する。
並び順は作曲家名のアルファベット順だが、作曲年代順に聴くのも面白い。クラシックからモダンへ、そしてストラヴィンスキーの与えた衝撃(私見ではバレエ音楽の進化はここで止まった)など、この音楽分野の発達史が手に取るように分かる。またこの種のCDに多い「抜粋版」ではなく、ほとんどの作品を全長版で鑑賞できることも特筆もの。
演奏陣で目立つのは、全35枚中19枚で指揮棒を振るリチャード・ボニング。オペラやバレエのスペシャリストとして著名な彼の作品を、これだけまとめて聴けるのは嬉しい限り。
長らくリリースが途絶えていた作品も何枚かあり、なかでもデビュー間もない頃のビシュコフがBPOを振る「くるみ割り人形」は嬉しい復刻。最近は某国営放送系の楽団に客演する彼の、若々しく覇気のある指揮が聴ける。
収録年は一部に60年代/90年代を含むものの、大半は70〜80年代。この時代の録音は、例えばEMIなどは音質があまり期待できないのだが、本作は定評あるデッカ録音(一部フィリップス音源あり)。期待に背かぬクオリティが保たれている。
内外の舞台公演が頻繁にTV放映される昨今、視覚をともなわないバレエ鑑賞は廃れていく傾向にあるのかもしれない。だが純粋な音楽として耳を傾ければ、バレエ作品は他のジャンルに無い輝きを持つことに気づかされる。それは人間の肉体による表現と向き合ったことで生まれたものだ。
この箱には、そんな輝きがいっぱいに詰まっている。