飛び抜けた新人には出会えず、ベテランの新作に落胆させられ…秀作が連発された去年と比べ、今年のR&Bシーンは覇気に欠けた
印象が否めない。自分と同じ物足りなさを感じているソウル・ファンの方に是非お薦めしたいのがAnthony Hamiltonの新作だ。
紹介するデラックスVerは全12曲の本編と4曲のボーナス・トラックから成る。 HamiltonはBill Withersを連想させる気骨と土臭さを併
せ持つ声を活かし、黒人社会の貧困・差別等を歌う社会派という印象があったが、本作は従来の硬派な面よりもラヴソングを中心とし
たスイートな表情が押し出されている。
クレジットを見てまず驚かされるのがBabyfaceの参加(3曲)。従来の彼のサポート人脈とは微妙に異なる線の人だけに期待と不安が
入り交じるが、結果的にBabyfaceの参加はHamiltonの音楽に潤いと聴き易さを与えている。
シングルとなった「Woo」は二人の個性が見事に融合した成功例。タイトなビートとHamiltonの辛口の熱唱が、BabyFaceの甘く哀愁あ
る旋律をぴりりと引き締めしっかりと聴き手の印象に残る出来だ。他の歌手が歌ったら只の中庸バラードになりそうな「Pray For Me」
でさえ、穏やかな導入部から頂点に至る叫びまで見事に抑揚のついたHamiltonの歌が生ぬるさを見事に払っている。
従来のスタッフ陣が関わる他楽曲では、本編の終わりを飾るJames Poyserプロデュースによる慎み深いバラード「Life Has A Way」
、これが堪らなく染みる出来なのだ。シャカシャカ…と静かに鳴るブラシと蠢くバスの響きが用意された空間、そこに一節毎に十分な間
をとったHamiltonのほろ苦い歌と人肌の温もりを纏ったオルガンの音色が重なる美しさと言ったら…これだけの名曲を聴いてしまうとPo
yserトータル・プロデュースで是非一作お願いしたくなる、70年代のソウル名盤に肩を並べるものが産まれる気がするのだが。
敢えてデラックスVerの紹介をしたのは、ボーナス・トラックの中にこれまた名ミディアム「Fair In Love」が含まれているからだ。プロデュ
ースはThe Lion's Shareなる人物(詳細は不明)。中心にギターのループ・フレーズとドラム、Hamiltonの歌を配置。その周りに分厚い弦
楽器・ホーン隊を細かく装飾した緻密だが大胆なアレンジから得られる幸福感は実に「ゴージャス!」としか言い様がない。これだけの
出来のものがデラックスVer限定というのは実に惜しい。可能であれば是非ともデラックスVerを入手して頂きたいところ。
複数人脈のプロデュースにより曲の出来映えに不揃いを感じる部分はあるが、それを差し引いても十分聴きごたえのある作品。この人
の誠実な作品創りにはいつも音楽への頑固魂と愛を感じるが、本作でもそれは裏切られることはないだろう。