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Baby ER 新生児集中治療室
 
 

Baby ER 新生児集中治療室 [単行本]

エドワード ヒュームズ , Edward Humes , 川上 直子 , 加部 一彦
5つ星のうち 4.8  レビューをすべて見る (10件のカスタマーレビュー)

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商品の説明

解説

--アメリカの新生児医療と日本の新生児医療--
加部一彦
 この本を読んだみなさんが最初にお持ちになった感想はどんなものだっただろうか。ジャーナリストであるヒュームズ氏の筆によって書かれた「NICUの日々」は、実際にそこで働いている筆者から見ても臨場感にあふれ、ここに描き出されている「人間ドラマ」は、舞台がアメリカのNICUであることを忘れてしまうほど違和感の感じられない内容である。それだけに、現在NICUに入院中だったり、NICUから退院した赤ちゃんを育てておられるご家族にとっては、ショッキングな部分も少なくないのではないだろうか。
 アメリカと日本では、医療保険制度にはじまり、医療の供給体制や医療現場で働くスタッフの構成や人数、治療の内容やその結果など、あらゆる部分において違いがあるのも確かであり、本書の訳出にあたってはその辺りの事情の解説をつけ加える必要があるだろうと考えた。もとより、全ての点に関して解説を加えることはできないのだが、本書を通じて、あまり一般には知られることのない日本の新生児医療の一端でも紹介できれば幸いである。

1 「医学用語」について
 すでに読まれた方はおわかりのように、この本には数多くの「医学用語」が登場する。翻訳の段階で、できる限り日本で一般的に使われている表現や日本語訳に置き換え、それでもわかりにくい部分に関しては簡単な註をつけたが、本書の中でヒュームズ氏が指摘するように、医療現場で使われている表現というのは改めて考えてみると、どうしてわざわざこんな表現をするのか……というものもあって、考えさせられた。一方で、医療関係者に限らず普通に使われて、意味も充分に通じる言葉でありながら、逆に医療現場では使われなくなったり、使わないようにしようとしている言葉もある。そのような用語の一例が本書ではあえて使っている「未熟児」という表現だ。世間一般では、「予定日よりも早く生まれた(日本では「在胎三十七週未満」)」だけでなく、単に「生まれたときの体重が小さかった」赤ちゃんの事をさして「未熟児」と使っていることが多いように感じる。また、その場合の「小さい」という事に関しても、具体的に「○○○○グラム」以下なんていう事でなく、これまた漠然とした感覚で三千グラム以下の体重で生まれた赤ちゃんまでを含めて「ウチの子は未熟児で生まれて……」などといわれているのではないか。かつて、WHOが「出生体重二千五百グラム以下の児」を「未熟児」と称していた時期があったために、この言葉は今日でも「在胎週数」だとか「出生体重」などといった厳密な定義なしに、慣用的に「小さい赤ちゃん」を指す単語として広く使われている。医学用語としてはすでに「未熟児」という言葉は正式には使わず、「低出生体重児」を用いることになっていて、「出生体重二千五百グラム未満で生まれた児」(WHOの定義では「二千五百グラム以下であったが)を意味している。同様にかつての「超未熟児」(出生体重千グラム未満で生まれた児)は「超低出生体重児」、「極小未熟児」(出生体重千五百グラム未満で生まれた児)は「極低出生体重児」と、ややもったいぶった表現をするのが正規表現である。
 本書の訳出に際して、医学的正確性を期すのであれば、当然「低出生体重児」を用いるべきだろうと悩んだのであるが、随所に登場するこの言葉を堅苦しい専門用語に置き換えてしまうよりも、あえて世間一般に慣用的に使われている「未熟児」という言葉を用いる事によって、全体の「硬い」感じが少しでもやわらげられればと考えた次第である。

2 周産期・新生児医療システム
 現在日本でも厚生労働省が推進する「すこやか親子21」という政策の中には、全国の都道府県に十年以内に、それぞれ最低一か所の総合周産期母子医療センターを配置することがうたわれている。そもそもは、おおむね人口百万人に一か所の割合で総合周産期センターを配置しようと平成八年度から始まった整備事業が、今年から「すこやか親子21」の中に数値目標として掲げられたのであるが、現時点で国から認定を受けている周産期医療ネットワークの整備はまだ十都府県にすぎない。計画では、「フル装備」の総合周産期センターを中心に、その周辺、おおむね人口二十万~三十万人に一か所の地域周産期母子医療センターを配置して、これらの施設の相互ネットワークで「地域化」を進めようというのが当初の計画であった。しかしこの計画では、国の指定を受ける総合センターは「各都道府県に当面一か所」と画一的で、例えば、人口千百万人の東京都にも人口八十万人の島根県にも国の指定を受けられるセンターは一か所しか作られないという事になってしまう。このため、東京都など規模の大きい自治体では、国の指定する総合周産期医療センター以外に、自治体が独自で複数の総合周産期センターを指定している。また、各自治体の地理的条件も問題になる。センターが一か所しか作られないのであれば、どこにその総合周産期センターを配置するのか。場合によっては、隣の県の周産期センターの方が近いといった地域も少なくない。また、「センターもネットワークも全く新しく一から作る」という場合は良いのかもしれないが、多くの自治体では、すでに周産期・新生児医療を長年おこなってきた医療機関が存在している事の方が多く、各地にバラバラに存在する既存施設をどのようにネットワーク化していくのかも問題となる。東京都を例にとれば、現在二十一施設が指定されている都の周産期センター(総合周産期センター六施設、地域周産期センター十五施設)のうち、十八施設は二十三区内に存在し、人口が伸びている多摩地区など都区部以外には三か所のセンターしかないため、これらの地域に住む患者さんは、居住地の近くに入院できるキャパシティーが不足しており、ひとたび何か起った場合には、住居地から離れた二十三区内のセンターへ搬送される可能性が高い。日本ではNICUにいったん入院してしまうと、退院までそこの病院でケアを受けることが普通で、入院期間が数か月にもおよぶことがある超低出生体重児の赤ちゃんなどでは、家族は長い間、遠い病院まで通い続けなくてはならなかったり、また、多胎児妊娠の早産の場合など、おかあさんだけが分娩した病院に残り、赤ちゃんは複数の病院に別々に入院になってしまった、などといった冗談ではすまされない事態も実際に生じている。[抜粋]

[ご注意ください]

3 医療スタッフ
 アメリカのNICUと日本のNICUとで、「違っている部分」の代表となるのが、「NICUで働く医療スタッフ」の構成だろう。基本的に「新生児科医と看護スタッフ」しかいない日本のNICUに比べて、アメリカのNICUに登場するスタッフは実に多彩だ。本書にも登場する「呼吸療法士」にはじまり、新生児看護の専門家である「NNP(新生児専門看護士)」、「退院コーディネーター」「ナースコーディネーター」などなど、こんなに細分化されていて大丈夫なのかと思うくらいである。実際、アメリカでも日本同様に医療事故が大きな問題になっていて、その防止のために「チームワークの確立」や「医療チーム内のコミュニケーションのあり方」が盛んに議論されているところを見ると、やっぱり大人数の医療チームでひとりの赤ちゃんのケアをおこなってゆくことは、それ程容易なことではないのだという事がよくわかる。アメリカのNICUに行くと、日常のケアはもちろん看護スタッフがおこなっているし、人工呼吸器の管理は呼吸療法士がおこない、病院によっては、点滴ルートを確保する「IVnist」なんていう専門スタッフがいたりして、一体、医者は何をやるんだろう……とかえって心配になるほどで、この本の舞台になっているミラー子ども病院の「四頭ドラゴン」たちは、実はアメリカの医療現場ではちょっと「例外」的なほど、臨床にタッチしている新生児科医たちなのである。
 NICUに必要なのは「チーム医療」だとは日本でもよくよくいわれることだが、「チーム医療」を成り立たせるために不可欠なのが「コミュニケーション」の能力だろう。ひとりの赤ちゃんにかかわるスタッフが増えれば増えるほど、スタッフ間、スタッフと家族間のコミュニケーションが密に保たれている必要があり、しかも、このコミュニケーションは、決して一方通行ではなく、双方向からのコミュニケーションでなくてはならない。インフォームド・コンセントが徹底しているどころか、むしろ最近では治療の選択そのものにも家族が参加するインフォームド・チョイスが当たり前のアメリカのNICUを見ていると、医療のあり方そのものについて我が身をおおいに反省させられる。それでも日本の医療現場の中では、NICUは「チーム医療」が確立されている方だと信じているが、そろそろ、「医師が一番偉い」、「医師の決めたこと、いったことは絶対!」などという「旧態依然」とした人間関係を根本的に見直す必要がある。日本では、特に医師が書いた論文の中で、他の医療職種を「コ・メディカル」とか「パラ・メディカル」などと表現しているのをよく見かける。 「コ・……」というのは「補助的な……」というニュアンスだし、「パラ・……」という のは「周辺の……」というニュアンスで、こんな用語を無意識に使ってしまうところにも、医師中心の考え方が色濃く映し出されているといえるのではないか。アメリカでは、医師を含め医療専門家はみんな同じ「ヘルスケア・プロバイダー」であり、医療の中心には赤ちゃんと家族がいるという考え方が浸透しているように思う。もちろん、アメリカでも、歴史的には「医師至上主義」の時代があったわけで、今でもそれが全く無いかといえば、現実にはそれほど理想的にうまくいっているわけではないのだが……。
 多くの専門職種が仕事を分担することには、メリットもあればデメリットもあるだろうが、例えばご家族の精神的サポートをおこなう心理スタッフなど、日本のNICUにも今後ぜひ迎え入れたい専門スタッフも少なくない。最近は日本のNICUでも、おかあさん(時にはおとうさんも)が小さな赤ちゃんを自分の胸に直接抱く「カンガルーケア」をおこなっている光景が普通になってきた。「後遺症なき生存」が何よりも最大の目標であった八〇年代から、二十一世紀の新生児医療は「家族が中心」、「家族も参加」するNICUに変貌を遂げようとしている。そこは従来の「ケア」に重点が置かれているNICUではなく、ケアは当然として、その上でいかに赤ちゃんの人間的な成育のための環境が整えられているか、というところに工夫が凝らされる、そんな時代になってきたのである。人間をケアするのは機械ではない。人間を包み癒すのは人間にしかできない。これからのNICUは「医師と看護婦」だけの閉ざされた空間ではなく、家族を含めて多くの専門家が積極的に参加する、そんな場所を目指していかなくてはならない。日本の病院一般にいえることだが、「面会時間」を始めとする数多くの「やってはならない」事が溢れている。最近でこそ、NICU内に赤ちゃんのご両親以外、おじいちゃんやおばあちゃん、赤ちゃんの兄姉まで面会に入れるようになってきたものの、「回診における家族の役割」なんて事が議論されているアメリカの状況を見ると、日本のNICUは一層の「規制緩和」を進めなくてはならないと痛感するし、そのためにも、もっと多くの専門家が新生児医療に関わる、関われる状況を整えていかなくては、と考えるのである。
 さて、NICUで医療に参加する専門職種が増えれば増えるだけ、医療チームを引っ張っていくリーダーシップが必要となるわけだが、果たしてその「リーダー」の役割を担うのは、「支配者の地位を降りた医師」なのだろうか……。もちろん、おおいに気になるところだ。

4 赤ちゃんの病気とその予後
 医療保険のシステムが違っていても、平均在院日数が違っていても、赤ちゃんにおこなわれている医療の内容そのものには、日本とアメリカでそれ程の違いはないのではと思われるかもしれない。まあ、確かにその通りの部分もあるのだが、治療の成績を比べてみるとまだまだ彼我の違いも少なくないようだ。日本の新生児死亡率(「出生千人あたりの生後四週未満の新生児死亡数」を表す数値)は現在一・八(一九九九年)と世界一の成績で、一方、アメリカの新生児死亡率は四・九(一九九五年)である。この差が生じる原因は、医療保険制度や社会事情など一言では説明できないのだが、こと低出生体重児の出生に限れば、日本では「ティーンエージャーの妊娠・出産が少ない」、「麻薬など薬物常習者が少ない」、「(今の所)貧富の差が極端ではない」、「医療へのアクセスが保証されており、妊娠中もキチンと定期健診を受ける人が多い」などといった社会的事情の違いが大きく影響していると思う。医療保険制度のあり方に関しては、日米ともに盛んに議論がおこなわれているところであるが、かなり乱暴ないい方をすれば、病院の会計窓口で患者さんが直接払う医療費が非常に「高い」アメリカでは、結果的にそれが受診の抑制に働いており(本当に「受診抑制」になっているのかということには議論の余地があるのだか)、一方、病院窓口での患者負担が「低い」ために医療にたいする「コスト意識」が診療側・患者側ともに低く、軽症でも大病院が気安く利用できる日本とでは、「病院にかかる」という事にたいする世間一般の考え方に違いがあるのは当然だと思う。日本では、低出生体重児を含め病的新生児の医療費は「養育医療制度」によってカバーされており、たとえ赤ちゃんが六百グラムで生まれようとも、ご家族の負担がそれによって跳ね上がるという事はない。[抜粋]


登録情報

  • 単行本: 405ページ
  • 出版社: 秀潤社 (2002/01)
  • ISBN-10: 4879622478
  • ISBN-13: 978-4879622471
  • 発売日: 2002/01
  • 商品の寸法: 18.4 x 13 x 2.4 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.8  レビューをすべて見る (10件のカスタマーレビュー)
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書き出し
ROBERT ALLMAN RACES DOWN THE HOSPITAL HALLWAY, FOLLOWING the plastic embossed signs leading him toward his son, a baby born far too soon, a frighteningly motionless child who had been swept from the delivery room inside the heated acrylic case of a premature-infant transporter, bound for something called the "Nick-you." 最初のページを読む
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5 人中、5人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By カスタマー
形式:単行本
実際に20日間NICUにお世話になりましたが、この本を読んで国は違えど、医師やナースの懸命さや家族の気持ちを、とても細かく書いてありました。医療関係者だけでなく、子を持つご両親にもぜひ読んで欲しい本です。
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4 人中、4人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By カスタマー
形式:単行本
NICUでローラーコースターに乗っているたくさんの両親達の一人として、この本を日本語で読むチャンスを与えて下さった加部先生にまずお礼を申し上げます。気がつくと夢中になって読んでいました。アメリカを舞台にしたものだけれど、懸命に生きようとする未熟児達は世界中何処でも存在し、新生児科医、看護師そして両親の、その切実な思いは何処でも同じであることを教えてくれる、臨場感にあふれた素晴らしい書物です。命を授かること、生きること、家族を持つことの意味について、たくさんの未熟児を取り巻く人々のエピソードの積み重ねで問いかけ、読む人はきっと勇気づけられ明日を迎えられることのありがたさを心から感謝するでしょう。また、新生児医療の過去から現在までについてもくわしく述べられているため、ここ10数年の目を見張るほどの発展ぶりにも驚かされました。アメリカの医療制度の問題点も浮き彫りにされており、病院が企業として利益をあげることを優先しなければならないこと、医師が本来の仕事とは別に経営面での戦略や対策に時間を費やすことを強いられる市場経済主義の厳しさも描かれています。
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8 人中、7人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
By ksugihara VINE™ メンバー
形式:単行本|Amazonが確認した購入
 自分は新生児科医なのだが.日本と米国の医療精度のちがいはあるにせよ、いずこも同じだなあという感想をもった.
 多くの人にこの本を勧めたい.とくに子供を持つ前に.いかに新生児の医療が虐げられているのか.日本は少子化、少子化とさわぐわりには子供の医療に対して何も手助けをしてくれない.私たち一人一人が自分たちに出来ることをしていかなければ何も始まらない.事実を知って、考えることを始めてほしい.
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