このDVDはカラー録画と白黒録画の2部からなります。シェリングの演奏はいつもどおりミスがなく、非常に素晴らしいです。カラー画像の部分については、録画について気になることがないわけではないですが(左右の音のバランスが不安定になる箇所が存在する、第一楽章のカデンツァの一部がカットされている、マロキンの「祖国から」は抜粋のみである、など)、大きな問題ではないと思います。
白黒録画の部分は大好きです。なぜなら、カメラの位置が一定しているため聴衆の視点からシェリングの演奏を鑑賞することができるし、音質も美しいからです。最も好きな演奏は、プニャーニのラルゴ・エスプレッシーヴォで、この演奏の持つ静かな美しさには、心の最も深いところを揺り動かす力があると思います。サラサーテの「サパテアード」の躍動感に満ちた演奏は驚異的です。一弓連続スタカートや左手のピッチカートなどの超絶技巧が視覚的に確認でき、非常に興味深い内容を含んでいます。
シェリングには膨大な数の録音が残っているにもかかわらず、往年の彼の雄姿を収めた映像はきわめて少ないです。このDVDの発売前においては、ファンはシェリングの映像の入手に大変な苦労をしなければなりませんでした。その点で、このDVDの発売はシェリングのファンにはありがたいものでした。2003年9月に、英EMIより「The Art of Henryk Szeryng」という美しいDVDが発売され(ブラームス:ヴァイオリン協奏曲、バッハ、ブラームス、ルクレール等の小品)、これにより、シェリングの映像がいっそう集めやすくなりました。けれども、まだまだ十分とはいえません。世界中に眠っているはずのシェリングの映像が、ひとつでも多くDVD化されることを期待します。