‘88年リイド社から発売された単行本に加筆し双葉社から発売された作品。’98年に文庫化されている。原作は「アストロ球団」の原作者である遠崎史郎。
ネパールのカトマンズで暮らす「K」と呼ばれる謎の日本人の男。年齢は40歳前か。普段はヒマラヤ登山のシェルパ(登山案内人)をしているのだが、誰も救助に向かえない困難な遭難事故が発生すると彼に救助を求めに来る。この作品はその「K」の救出劇5編を収録したものである。
といっても、ただ感動的な救出劇が描かれた作品ではない。そこには一人の人間としての「K」が描かれている。彼は既に死んでしまった人物も救出?に山に登ることもあるのだが、彼は正義感人だけの人ではない。勝算のない救助には首を縦に振ることはなく、登山の条件が整うまでは腰を上げない。勇気だけの人でもない。遭難現場を見上げて恐怖を感じ自棄酒を飲んだりする。そこには彼が過去に山で経験した死の恐怖と山に対する畏怖が描かれている。そして救出される人物達にもドラマが描かれている。
谷口ジローの画力がなければ描き切れなかった作品であるのには間違いないのだが、原作者遠崎史郎の力も大きいと思う。「アストロ球団」の荒唐無稽さからは想像できないリアルな作品である。注)「アストロ球団」をけなしているわけではない。僕はこの作品が大好きである。
谷口ジローの山岳作品の中では「神々の山嶺」が有名になっているが、この作品もそれに並ぶ傑作である。