2人の人物が、著者の太賀麻郎を「敬愛」するという表現を使っている。
カリスマAV監督代々木忠と、ベストセラー『名前のない女たち』の著者中村淳彦である。
一体、男から敬愛されるAV男優太賀麻郎とはどんな男なのか?
私も、敬愛のような感情をもっている。
私の場合mixiでマイミクにしてもらっただけだが、彼のような男との出会いは初めてで、度肝を抜かれている。
なぜ彼は5000人以上の女性を抱くことができたのか、その謎は、彼と付き合ってみれば瞬時に氷解する。
その秘密は単純だ。彼ほど、他人のために尽くすことのできる人間はいない。
単純ではあるが、彼の真似はとてもできない。
もし彼が栄光だけの男ならば、私は今の感情をもつには至らなかった。単なる嫉妬の対象として終わりである。
彼には挫折もある。
もっとも、たいていの人はそのリスクを恐れて平凡で無難な道を選ぶ。結果、彼のような人生は送れない。
彼の特徴を最も端的に形容した表現は、“決してブレーキを踏まない男”(by代々木忠)であろう。
簡単な話、あなたは山口組と一和会の抗争の真っ直中にいるヤクザの待つマンションに丸腰で1人乗り込み、なおかつヤクザの面子が立たないだろうから好きなだけ殴られてやろうという覚悟ができるだろうか。
麻郎は、それをやった。
彼がどんな男か。このエピソードだけで十分なのではないか。
私は今、専ら、死ぬ瞬間に何を思うのだろうかと考えて生きている。
おそらく自分の人生で出会った人のことであり、出会いとは別れなのだから、別れのシーンである。
この作品で一番印象深いのは、別れのシーンである。
加奈子との別れ。ルミとの別れ。楼蘭との別れ。竹下ゆかりとの別れ。上杉久美との別れ。
別れのシーンの描写には、なべて特別な情感のこもった筆致が見られる。
これこそが俺の人生だった、私だったらそう思って、微笑みながら逝けるだろう。
夜明けに楼蘭のアパートで聞く踏切の鳴る音。
上杉久美と堕胎のために産婦人科医を訪れた冬の午後の、すべてが乾ききったような冷たい空気。
加奈子のことを思い出す時、眼に浮かぶリモコンのキーコール……。
心に、しっとりと心地良いものがじわっと流れ込んでくる。
最高級の読書体験である。
「俺はこの時、自分は『情熱』に生きようと決めた。社会や常識が俺達をどう縛ろうと関係無い。俺は俺の生きたいように生きるのだと。
けれどそれは俺の、負けるための戦い――その始まりでもあった。」
「1984年から88年にかけて、俺は2億近い金を稼ぎ、5000人を超える女を抱き、十数台好きな車に乗ったが、次の10年をかけてそのすべてを失った。」
最後に麻郎に言っておきたい。確かに失ったもの多く、戦いには負けたかもしれない。
しかし決して、己の人生を悔いないでほしい。
それは壮絶なまでに、素晴らしいものである。
少なくとも私にとって、これ以上の人生はない、至上の人生である。
そんなこと当たり前だよ、お前になんか言われたかねえよ、そう鼻で笑ってほしい。
この素晴らしい本を世に著してくれたことに、鳴謝を惜しまない。