リーフレットで上妻宏光は「少年時代、僕はよくテレビやラジオから流れてきた音楽に合わせて津軽三味線を弾いては遊んでいました」と述べています。
このアルバムも彼の津軽三味線の魅力をいかに伝えるのか、という苦心が選曲の多様さに表れています。ちょっと聴くと、ミスマッチかと思わないでもない曲が入っていますが、アレンジに工夫があり、途中から上妻ワールドともいうべき独自の音楽世界が展開されますので、変化に富んだ演奏が並んでいました。
全体を聴き通して日本人の血が騒ぐ思いがします。激しいバチさばきとロックテイストの西洋の楽器との見事な融合、魅力的でかつ刺激的な音に満ち溢れていました。
「砂山」は中山晋平が作曲した童謡の名曲ですが、粋の世界を爪弾いたイントロから始まり、そのテイストを西洋の和声でもって包みこんだような不思議な音楽世界が眼前に広がります。途中の不思議な言語の女声が異次元に連れて行ってくれました。青木誠氏の解説にはそれに触れていなかったので分かりませんが、遥か悠久の彼方のユーラシア大陸へ飛翔するような伸びやかさが感じられたのですが。
チック・コリアの「スペイン」でのスピード感と躍動感は、全世界に通用するような音楽でした。技術の確かさは太棹の音の粒立ちの確かさで理解できます。バチを使っての早いパッセージの動きも生理的な躍動感をもたらしました。パッションとジャジーなサウンドの洪水に身を任せていると身体中に躍動感がみなぎるようでした。ジャンルも国境も時代も突き抜けた音楽を思う存分展開してくれました。