負の感情とうまく付き合う方法
第三世代の認知行動療法とも呼ばれるACT(acceptance and commitment therapy)の手法を、理論とともに様々なワークを行いながらマスターしていくように作られているワークブック。ACTの考え方を簡単に説明するのは難しいが、あえて言うとすると、自分の負の感情を受け入れ(Accept)、今、ここにある自分をきちんと感じ(mindful)、自分の価値観を明らかにしたうえで行動の指針に沿うことを決定(commit)し、生活するというものである。第一世代の認知行動療法が、負の感情を理論で修正しようとするものであるのに対し、ACTは負の感情はなくそうとすればするほど強くなるので、まずは受け入れることが大切としている点がACTの新しいところである。臨床試験でもうつ病を再発している人に対しACTは高い効果を上げていることが示されている(これは、うつ病を再発した人は、気分の落ち込みがあった際に、再発の恐怖による回避行動が再発につながるということを防ぐためであると私は推測している)。
本書の内容は非常に充実しており、詳しくACTを知るには最適な本であると言える。掲載されているワークも多岐にわたり、上手に使えば有用性は高いと考えられる。しかしながら、一般の人がセルフヘルプのために利用するにはハードルが高いと言わざるを得ない。なぜなら、多数のワークが掲載されており、その多くはかなりの手間がかかるためである。精神的な問題を抱えていない読者は、ワークをすべて行う意義は見いだせないであろうし、精神的な問題を抱えている読者であれば、ワークを行う気力を持つことが難しいと思われるからである。いずれにせよ、一人でこの本のワークをすべて行うには強い精神力が必要とされる。また、ACTの効果を高めるにはどれか一つのワークを行えばよいわけではなく、accept, mindful, commitのすべてをマスターして効果が上がるものであることから、いくつかのワークを選んで行うということも素人には難しい(ACTを熟知した人であれば、その人にあったワークをいくつか選ぶことは可能)。そういう意味で、本書はセルフヘルプのテキストというよりも、トレーニングを受けたセラピストが活用するためのテキストと考えたほうが良い。ACTのセラピーを受けているクライアントが、補助教材として利用することは十分可能である。また、ACTに関心が高い人が集まってグループで実施していくということも可能ではあろう。