ファンタジーである。
しかしそれは、
緻密なリアリズムに載せて語られる
ファンタジーである。
国際的な美術業界の圧倒的なディテール。
某有名デベロッパーの生々しい裏側。
今の上海の空気感。
そして今の中国の人々が持つ「あの視線の感じ」。
世界を駆け巡る現役キュレーターであり、
かの有名美術館を立ち上げたプロであった作者ならではの、
専業小説家が少々がんばって取材した程度では
到底たどり着くことのできないリアリズム。
そこにまるで「大人のための少々辛口なディズニー」とでも言うべき
ファンタジーが乗っかる心地よさ。
ディズニーファンには怒られるだろうが、
ディズニーランドが退屈なのは、
そこがただのファンタジーでしか過ぎないからだ。
土台としてまずは眼に浮かぶようなリアリティがある。
そこに絶妙なバランスでファンタジーの幕を広げる。
だから物語は濃く、深くなる。
そして原田マハファンにはおなじみの
「カフーを待ちわびて」と同じ、
後半から突然加速する快感も再び。
題材は一見少女マンガが好むテーマのようではあるものの、
相変わらず原田作品は脇役への目配りが優れ、
「王剣」「ディビッド」「南」、
そしてもう一人の主人公である「彼」など、
様々な男たちの存在と立ち位置が、
男性読者をシラケさせないどころか、
作中にぐいぐいと引き込んでいく。
改めて思えば、上海は1920年代から「魔都」であった。
ファンタジーに、ここほど相応しい都市はない。