日本は四方を海に囲まれているけれど、オーストラリアやニュウジーランドな
どの島国と比較して人口当たり、或いはGNP当たりのヨットの数が極めて少な
い。そして彼らと比べて日本ではヨットが日常の生活と密着していない。日本で
は過去半世紀以上、学生ヨットがその主流を占めてきた。学生時代は精を出して
ヨットに乗るが卒業後は会社勤めで忙しくヨットから離れた生活となっていく。
ヨットをやった人たちは誰もが大海原での航海を夢見ているが、その機会がもて
ないままにサラリーマン生活を終え夢は立ち消えになるのが日本のヨット界の
今までの歴史であったと思う。
ところが村田さんは70歳にして処女航海で太平洋を単独で横断するという快挙
を成し遂げた。現役時代「ユミクロン電池」という超高効率の電池を発明しアメ
リカ学会で発表したり、イギリスでは工場を立上げ成功させ、最後はユアサコー
ポレーション(現、株・ジーエスユアサバッテリー)の専務まで務めた。まさに
サラリーマンを120%勤め上げて、卒業してからの快挙は新しい時代の幕開け
といっても良いかもしれない。処女航海はすべてのことが新鮮である。44年前、
当時23歳の堀江謙一さんが行った処女航海の偉業に触発された夢を、恐らくは
もっとも年寄りの70歳で実現したのだから、本人は満足に違いない。日本からア
メリカにわたる北太平洋はヨット乗りにとっても難しい航路の一つである。
村田さんはこの航海を70歳の記念行事として行い、海を味わい、孤独を味わ
い、歴史を振り返り、人間を見つめ、自然を見つめることを目的としたが、海
上での思いを国内外の友人達に50篇にも及ぶ海からの便りとして送ってきた。し
かも全部英文である。このあたりはいかにも実社会を十分に経験してきた男の
航海として、単なる航海ではない特色をもっている。また、この50篇の便りが、
日本人よりもむしろ多くの外国人に注目され愛読されていたとは驚きである。
処女航海の恐怖、そして大海原でどのようなことを考えてきたのか、あるとき
は哲学をし、あるときは詩をつくり、あるときは200年後に思いを馳せて表現し
た彼の思いを一味違ったものとして読者はこの本のなかに見出すに違いない。
航海記なども加えて今回出版の運びとなったことは、これから巣立っていく団
塊の世代の人々にとっても勇気と夢を与えるものと思う。
2007年5月 友人 元ヤマハ発動機会長 長谷川至
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