前半3分の2で「壮大な戦略」の実行によって窮地に追い込まれていった幾多の例が紹介される。米国企業のケース・スタディらしく買収や新規事業の展開に伴うものが大半を占める。正直言えば、この前半部分が思ったより面白くなかった。勿論成功例よりも失敗例に学ぶところが多いし、これらの失敗事例を読んでいて身が引き締まる思いもしたのだが、事例紹介が平坦なため途中で何度か飽きを感じてしまった。
後半3分の1で、これらの「壮大な戦略」を前にして如何に経営幹部や組織が冷静な判断力を失っていくか、逆に客観的な視座を保ち冷静に判断を下すためにはどうすべきかが説かれる。これらの分析は一般的にOrganizational Behaviorと呼ばれる分野にあるが、個人レベル(自分の直感をサポートする確認バイアス等)から組織レベルの行動(組織間の妥協等)までに及ぶ。この後半が格段に面白いし、本書の価値はこちらにある。(そういう意味で、前半に焦点のあたる邦題『7つの危険な兆候』は良くないのでは。)
著者が提示する処方箋は “Devil’s Advocate” の活用だ。あえて反対意見を述べる役を設置し、議論を通じて戦略を丹念に検証していくプロセスが不可欠だとする。一見シンプルだが、そもそも失敗の原因が人と人、組織と組織の摩擦にあることを考えれば、この処方箋をきちっと実行するのは容易ではない。終盤ではこの課題にどう立ち向かうかが説明される。
Devil’s Advocateの効用を訴える二つのエピソードが印象的だった。一つは、GMのアルフレッド・スローンが全員一致で賛同した案件について、反対意見を待つべく意思決定を延期したというもの。もう一つは、古代ペルシア人が重要な案件について、酒に酔っているときと翌朝の素面のときと二度議論したというもの。
自身を過信せず反論を歓迎すること、これこそが大失敗を避けるための古今東西に通じる大原則。反論歓迎と口で言っていても本当にできているか? 自分を、自分の組織を振り返るのに有用な一冊。